Kitabı oku: «英雄たちの探求 », sayfa 9

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第二十六章

ソアは、森の曲がりくねった小道を、グウェンと会った時のことを考えながら何時間も歩いていた。 頭から彼女のことが離れなかった。一緒に過ごした時間は、ソアの想像をはるかに超えて、魔法のようだった。自分に対するグウェンの思いの深さについてはもう心配していなかった。何もかもが素晴らしい一日だった。最後に起こったことを除いては。

あの白ヘビは非常に珍しく、不吉なことの前兆である。かまれなかったことは幸いだった。ソアは自分にぴったりくっついて楽しそうに歩いているクローンを見下ろし、もしクローンがいなかったら、ヘビを殺して自分たちを助けてくれなかったら、どうなっていただろうと考えた。二人とももう死んでいただろうか?ソアはクローンにはずっと感謝していた。そして信頼できる一生の友達だと思った。

だが、前兆のことは今もソアを悩ませていた。あのヘビは大変に珍しく、王国でもこの辺りにはいない。ずっと南、湿地帯に生息している。これほどの距離をどうやって来られたのか?なぜあの瞬間に、二人のところに来たのか?大きな謎である。それが何かを予知しているのだとソアは確信していた。グウェン同様、何か悪いことの前兆で、死が迫っているのを告げているのだと感じた。だが一体誰のだろう?

ソアはそのイメージを頭から振り払い、忘れて他のことを考えたかった。でもできなかった。そのことが彼につきまとい、気が休まる暇もなかった。バラックに戻らなければならないのはわかっていたが、できなかった。今日は終日休みなので、戻る代わりに森の小道をめぐり、心を落ち着けようと何時間も歩き続けていた。ソアは、あのヘビが自分だけに何か重要なメッセージを送り、行動を起こすよう自分に促しているのだと感じ取った。

更に悪いことには、グウェンとの別れを急ぎすぎた。森の端に出たとき、言葉も交わさずに二人は素早く別の道を行くことにした。彼女はとても動揺しているようだった。それはヘビが原因だと思っていたが、確かではなかった。また会うことについては何も言っていなかった。彼への気持ちに変化があったのだろうか?自分は何か良くないことをしただろうか?

その思いがソアの心を引き裂いた。自分がどうしたらよいのかわからずに、何時間もさまよい続けた。こうしたことをわかってくれる誰かと話をしたかった。前兆の意味を解釈できる誰かと。

ソアの足が止まった。そうだ。アルゴンがいる。彼なら理想的だ。すべて説明して気を楽にしてくれるだろう。

ソアは四方を見渡した。最も遠い尾根の北端に立ち、そこからは宮廷が位置する都市を一望に見下ろせた。道が交差する地点に立っている。ソアは、アルゴンがボルダー平原周辺の北側にある、石造りの小屋に一人で住んでいるのを知っていた。街と反対方向に分かれ道を左に行けば、小道の一つがアルゴンのところへつながっていることも知っていた。ソアはすぐに出発した。

長い道のりになるだろう。そしてソアが着いたときにアルゴンが不在である可能性もある。だが試さないわけにはいかない。答えを得るまで心が休まらなかった。

ソアは新たな勢いを得て、平原に向かって駆け足で進んだ。歩き続けるうちに午後になった。美しい夏の日、ソアの周りの野原を光が輝くばかりに照らしていた。クローンがそばを飛び跳ね、時折リスに飛びつこうとして止まっては、勝ち誇ったように口にくわえてきた。

小道はだんだん険しく、曲がりくねってきた。草原の景色は消えていき、岩だらけの荒れ果てた風景に変わった。やがて小道もなくなった。ここまで来るとひんやりとし、道がますます曲がりくねっている。木も減り、岩だらけのゴツゴツした景色になった。小さな岩や土、そして見渡すばかりの大岩で、薄気味が悪かった。ソアは見棄てられた土地までやって来たような気がした。小道が完全になくなると、砂利や石の上を歩いた。

ソアの脇では、クローンが哀れっぽい声を出し始めた。ぞっとするような空気があたりに漂うのをソアも感じた。邪悪ではなかったが、異質な雰囲気だった。深い、霊的な霧のような。

ソアが方角を間違えていないか、と考え始めたその時、地平線上の丘のてっぺんに石造りの小屋が見えた。環のように完全な円形で、黒く頑丈な岩でできていて、地面近くに低く建っている。窓はなく、アーチ型の扉が一つあるだけだった。ノッカーも取っ手もなかった。本当にアルゴンはこのような荒れ果てたところに住んでいるのだろうか?ソアが招かれもせずに来たので気を悪くするだろうか?

ソアは考え直してみたが、このまま続けようとした。扉に近づくと、辺りに漂うエネルギーを感じた。あまりにも強く、息がしにくいほどだった。こぶしでノックをする時、恐怖で心臓の鼓動が速くなった。

ソアが触れる前に、扉はひとりでに音を立てて開いた。中は真っ暗で、ソアには風で押されて開いたのかどうか もわからなかった。あまりに暗いので、どうやってこんなところに人がいられるのかと思った。

ソアは、手でそっと扉を押し開けて頭だけ中に突き出し、

「こんにちは」と呼んでみた。

扉をもう少し広く開けた。ずっと奥にかすかな光があるほかは真っ暗だ。

「こんにちは」大きな声で呼んだ。「アルゴン?」

隣でクローンが哀れっぽい声を出している。あまり良い思いつきではなかったこと、アルゴンが不在だということは明らかだった。だが、それでもソアは探した。二歩前に進んで中に入ると、扉が後ろでバタンと閉まった。

ソアは飛びのいた。すると遠くの壁のところにアルゴンがいた。

「お邪魔して申し訳ありません。」ソアが言った。心臓がドキドキしている。

「招かれざる客じゃな。」アルゴンが言った。

「お許しください。」ソアが言う。「侵入しようとしたわけではないんです。」

ソアは周囲を見回した。目が暗闇に慣れてきて、石壁の回りに小さなろうそく数本が円を描いて並べられているのが見えた。部屋は、天井の小さな丸い穴から射し込むほぼ一本の光で照らされていた。ここには抗し難い雰囲気がある。殺風景で超現実的だ。

「ここへ来た者はほとんどいない。」アルゴンが答えた。「もちろん、そなたも私が許可をしなかったらここには今いないはずだ。その扉は入ってもよい者にだけ開く。入れるつもりのない者には、世界中の力を総動員したところで決して開かない。」

ソアは気が楽になった。それでもアルゴンがなぜ自分が来るのを知っていたのだろうと思った。この人物はすべてが謎に包まれているとソアは思った。

「理解のできない出来事がありました。」ソアはすべてを話し、アルゴンの意見を聴く必要に迫られて言った。「ヘビがいました。ホワイトバックです。もう少しで攻撃されるところでした。ヒョウのクローンが私たちを救ってくれたのです。」

「私たち?」アルゴンが尋ねた。

ソアは言い過ぎた、と思いながら顔が赤くなった。何と言ったら良いのかわからなかった。

「一人ではありませんでした。」彼が言った。

「誰と一緒だったのじゃな?」

ソアはこれ以上言って良いものかわからず、舌を噛んだ。この男は父親の国王に近いところにおり、告げるかもしれない。

「それはヘビと関係がないと思います。」

「大いに関係がある。そもそもヘビが来たのはそのためだったとは考えなかったのかね?」

ソアは隙を突かれ、

「わかりません。」と答えた。

「そなたが見る前兆のすべてが、そなたに対するものだとは限らない。他の者に対して起こることもある。」

ソアは理解しようとして、かすかな光の中でアルゴンを観察した。グウェンに何か悪いことが起こる運命なのだろうか?もしそうだとして、それを止めることがソアにできるのだろうか?

「あなたは運命を変えることができますか?」ソアが尋ねた。

アルゴンは振り返って、部屋をゆっくりと横切った。

「もちろん、それこそ我々が何世紀もの間問い続けてきたことじゃ。」アルゴンが答えた。「運命が変えられるか?すべてが運命づけられておる。すべてが決まっておるのじゃ。その一方で、我々には自由意思がある。我々の選択もまた運命を決める。運命と自由意志、この二つが共存することは不可能に見えるが、できるのじゃ。この二つ、運命と自由意思が出会うところで人間の行動が作用する。運命はいつも壊せるとは限らないが、大きな犠牲と自由意思の偉大な力によって、曲げたり、変えたりすることさえできる。だが大抵、運命は強固じゃ。我々はただ傍観者として見ているしかない。自分たちが運命の一部として役割を担っていると思ったりもするが、普通はそうではない。たいがいは傍観者であって、参加者ではないのじゃ。」

「なすすべがないというのに、それならなぜ宇宙はわざわざ僕たちに前兆を見せたりするんでしょう?」ソアが聞いた。

アルゴンが振り返って微笑んだ。

「頭の回転が速いようじゃな。教えて進ぜよう。普通、前兆は我々が覚悟できるよう現れるのじゃ。珍しいことだが、時折行動を起こせるよう現れることもある。運命を変えるために。だがそれは非常にまれだ。」

「ホワイトバックが死を予告するというのは本当ですか?」

アルゴンはソアの顔を見た。

「本当だ」アルゴンがやっと答えた。「間違いなく」

その答えにソアの心臓は早く打った。恐れていたことが確かとなった。そしてアルゴンの率直な答えにも驚いた。

「その前兆を今日見ました。」ソアが言った。「でも、誰が亡くなるのかはわかりません。それを阻止するために自分に何かができるのかどうかも。忘れてしまいたいのですが、できません。ヘビの頭のイメージがつきまとっているんです。なぜなのでしょうか?」

アルゴンはかなり長いことソアを観察し、ため息をついた。

「誰が亡くなるとしても、そなたに直接影響があるからじゃろう。そなたの運命に。」

ソアはますます落ち着かなくなった。答えを聞くたびにまた質問が湧いてくるのを感じた。

「ですが、それは不公平です」ソアが言った。「亡くなるのが誰か知る必要があります。警告しなければなりません!」

ゆっくりと、アルゴンが首を振った。

「そなたにはわからないかも知れない。」アルゴンが答えた。「もし知ったとしても、そなたにできることは何もない。死はその対象を見つける。たとえ警告があってもだ。」

「ではなぜこの前兆を見せられたのでしょう?」ソアは苦しい思いで言った。「そしてなぜ私の頭から離れないんでしょうか?」

アルゴンは前に進み出た。すぐ近くまで来た。ほんの数インチしか離れていない。 この薄暗い場所にあって、その眼差しの強さは燃えるようだ。ソアは怖くなった。まるで太陽に見入るようで、目をそらさないでいるのがやっとだった。アルゴンは手を挙げてソアの肩に置いた。手触りが氷のようで、体中に寒気が走った。

「そなたは若い。」アルゴンがゆっくりと言った。「まだ学んでおるところだ。物の感じ方が深すぎるようじゃな。未来が見えるのは大変得なことじゃが、不幸の元にもなる。自分の運命を生き抜く人間のほとんどはそのことに気づいておらん。自分の運命、何が起こるかに気づくことは、最も辛いことでもある。そなたは自分が持つ力をまだ理解していない。だがいつか分かる日が来るだろう。自分がどこから来たのかを知った時に。」

「僕がどこから来たか?」ソアは混乱して尋ねた。

「そなたの母の故郷じゃ。ここからは遠い。峡谷の向こう、ワイルドの外側じゃ。空高く、崖の上に孤立して城がある。そこへは岩だらけの曲がりくねった道を歩いて行かねばならない。そこは空に向かって昇っていくような不思議な道で、偉大な力が働いている場所だ。そなたはそこから来たのじゃ。そこに着くまでは、完全には理解できないであろう。それが分かった時、すべての疑問が解ける。」

ソアは瞬きをし、目を開けた時には驚いたことにアルゴンの家の外に立っていた。どうやってそこまで来たのかわからなかった。

風が険しい岩山に吹きすさび、ソアはきつい日の光に目を細めた。隣でクローンが泣いていた。

ソアはアルゴンの家まで戻り、扉を力いっぱい叩いた。何の返事もなかった。

「アルゴン!」ソアは叫んだ。

返ってきたのは風が吹く音だけだった。

扉に肩をあてて開けようともしたが、びくともしない。

どれくらい経ったろう、日が暮れようという頃までソアは待ったが、ここで過ごせる時間はもうないことに気づいた。

ソアは振り返って、考えながら岩だらけの坂を下り始めた。前よりももっと頭が混乱しているような気がする。そしてまた、死が近づいていることも今では確信していた。それを止めることができない無力さも一層感じながら。

荒れ果てた場所を歩いている時、足首の辺りに寒さを感じ、深い霧が出てきたことに気づいた。あっという間に霧はより深く、上まで上がってきた。何が起きているのか分からなかった。クローンが泣き声を上げた。

ソアは引き続き山を下り、帰り道を急いだ。だが、ほんのわずかの間に霧があまりにも濃くなったため前が見えなくなってしまった。同時に手足が重くなり、まるで魔法にかかったかのように空が暗くなった。ソアは疲労感がひどくなっていくのを感じた。一歩も前に進めない。立っていた場所で霧に包まれ、地面の上に丸くなった。目を開け、動こうとしてもできなかった。あっという間に眠りに落ちた。

*

ソアは山の頂上に立っていることに気づいた。リングの王国全体を見つめている。目の前にあるのは宮廷、城、要塞、庭園、木々、そして見渡す限りの丘である。夏の盛りだ。野原は果実やあらゆる色の花々にあふれ、音楽やお祭りの音が聞こえる。

ソアがゆっくりと振り向いてすべてを観察しようとした途端、草が黒くなり、果実は木から落ちた。木々はしぼんで、跡形もなくなってしまった。花々はパリパリに乾燥し、恐ろしいことに、建物までもが次々に倒壊した。王国全体が瓦礫の山となり、廃墟と化した。

ソアが見下ろすと、突然巨大なホワイトバックが両足の間を這うのが見えた。ヘビがソアの脚、腰そして腕に巻きつく間、なすすべもなく立ち尽くしていた。ソアは窒息し、命を搾り取られるような気がした。ヘビが巻きつきながら這い上がり、シューという音を立てながらソアの顔をほんの数インチ先のところで見つめる。長い舌はソアの頬に届かんばかりだ。そして口を大きく開けて牙をむき、前にかがんでソアの顔を呑み込んだ。

ソアは叫んだ。そして城の中に一人で立っていることに気づいた。中には何もなく、王座も残されていない。運命の剣が触れられることもなく床に置かれていた。窓はすべて割れ、ステンドグラスのかけらは山となって石の上に積まれていた。遠くから音楽が聞こえた。音のする方を向き、がらんとした部屋部屋を抜けて歩いて行った。やがて大きな二重の扉の前に出た。高さが100フィートもある。ソアは全力で開けた。

ソアは王家の宴会用大広間の入り口に立っていた。目の前では、長いテーブルが二つ室内に広がり、食べ物であふれていた。人は誰もいない。広間の反対側の端に一人の男がいた。マッギル国王だ。王座に座り、ソアを真っ直ぐ見ている。ひどく遠くに見えた。

ソアは王のところまで行かなければと思った。二つのテーブルの間を通り、王の方へと広間を歩き始めた。ソアが通りすぎる際、両側のテーブルに載っている食べ物が一歩ごとに腐っていった。黒くなり、すぐにハエで埋め尽くされた。彼の周りにハエが音を立てて群がり、食べ物を引っ掻き回した。

ソアは歩みを速めた。王のところまであと少しだ。10フィートもない。その時横の部屋から、召使がワインの注がれた大きな金色のゴブレットを持って現れた。特徴のある純金製のゴブレットで、ルビーとサファイヤが何列にもあしらわれていた。王は見ていなかったが、召使がゴブレットの中に白い粉を入れるのをソアは見た。毒だとわかった。

召使が近くに持ってきた。マッギルは手を伸ばして両手でゴブレットを掴んだ。

「だめだ!」ソアが叫んだ。

ソアは国王からワインを取り上げようと突進したが、間にあわなかった。

マッギルはワインを頬や胸に垂らしながら飲み干した。

マッギルが振り向いてソアを見たその時、彼が目を大きく見開いた。手を挙げて喉をつかんだ。喉を詰まらせながら転げ、王座から脇に落ちて硬い石の床に倒れた。頭から王冠が取れて音を立てて床に落ち、更に数フィート転がった。

マッギルはそこに身動きもせず、目を開けたまま横たわっている。死んだのだ。エストフェレスが舞い降りてきて、マッギルの頭上に留まった。そこからソアを真っ直ぐに見据え、高い泣き声を上げた。あまりに鋭い音だったため、ソアは背筋が寒くなった。

「そんなばかな!」ソアが叫んだ。

*

ソアは叫びながら目を覚ました。

起き上がって、辺りを見回した。汗をかき、息が激しくなっている。自分がどこにいるのか考えた。いまだアルゴンの山の上で、地面に横たわっている。信じられない。ここで眠ってしまったに違いない。 霧は晴れていて、見上げると夜明けだとわかった。血のように赤い太陽が地平線に昇り、空を照らしている。そばでクローンが泣き、ソアの膝に飛び乗って顔をなめた。

ソアは息を切らしながらクローンを片手で抱きしめ、自分が起きているのか寝ているのか、理解しようとした。今までのことが夢だったのだとわかるまでしばらくかかった。ひどく現実的だった。

ソアは甲高い声を聞き、振り返ってエストフェレスを見た。ほんの一歩先の岩に留まった。ソアを真っ直ぐに見て何度も鳴いた。

その声でソアの背筋が寒くなった。夢と同じである。そしてその時、あの夢はメッセージだったのだと全身でわかった。

王は毒を盛られる。

ソアは飛び起きて、夜明けの光の中、宮廷目ざして山を駆け下りて行った。王のところに行かなければ。警告しなければならない。王は自分のことを頭がおかしいと思うだろうが、他に選択肢はない。国王の命を救うためにできることは何でもするつもりだった。

*

ソアは跳ね橋を越えて走り、城の別の門へと向かった。幸い、衛兵の二人は自分のことをリージョンの者だとわかって、止めずに中に入れてくれた。ソアは横のクローンとともに走り続けた。

ソアは宮廷の中庭を横切り、噴水を通り過ぎて城の中の門までまっすぐに走って行った。4人の衛兵が道を塞いだ。

ソアは息を切らして止まった。

「少年、おまえは何の目的だ?」一人が尋ねた。

「言ってもわからないと思います。とにかく僕を通さないと」ソアがあえいだ。「国王にお目にかかる必要があるんです。」

衛兵たちは、疑るようにお互いの顔を見合わせた。

「私はリージョンのソアグリンです。入れてください。」

「誰だか知っているよ。」衛兵の一人が別の衛兵に言った。「我々の仲間だ。」

だがリーダーが前に進み出た。

「国王にどんな用事があるというのだ?」しつこく聞いてきた。

ソアはまだ息を整えようとしていた。

「緊急の用事なんです。今すぐに会わないとなりません。」

「だが王はお前が来るとは思っていらっしゃらない。お前には情報が伝わっていないようだからな。王はここにはおられない。何時間か前に宮廷の用事で旅団とともにお出になった。今晩の饗宴まで戻られないだろう。」

「饗宴?」ソアが聞いた。心臓が高鳴った。宴会のテーブル。夢を思い出した。すべてが現実のものとなっている不気味さがあった。

「そうだ、饗宴だ。お前がリージョンの隊員なら出席するはずだ。だが、今国王は不在だから会うことはできない。今晩、皆と一緒に戻って来い。」

「ですが、メッセージを伝えなくてはならないんです!」ソアは主張した。「 饗宴の前に!」

「そうしたければ私にメッセージを託すこともできるが、お渡しできるのはお前と同じ頃だろうよ。」

ソアはこんなメッセージを衛兵に託したくなどなかった。狂っていると思われる。自分で今夜渡さねばならない。饗宴の前に。間にあえば良いが、と祈るばかりだった。

第二十七章

ソアは急いでリージョンのバラックに戻った。幸いその日の訓練が始まる前に着いた。クローンとともに、息を切らして戻った時には、ちょうど他の少年たちが起きて、その日の任務のため列を作って出て行くところだった。はっとして、困ったことになったと思い立ち尽くした。その日の訓練をどう切り抜けられるかわからなかった。国王に警告をする、夜の饗宴までの時間を逆算した。あの前兆は、王に警告ができるよう彼に現れたのだと確信していた。王国の運命がソアの肩にかかっていた。

ソアはリースとオコナーがフィールドに出ようとしている時、ひどく疲れた顔で二人のそばに走り寄り、並んだ。

「昨日の夜はどこにいたんだ?」リースが尋ねた。

ソアはどう答えるべきかわかれば良いのにと思った。自分でもどこにいたのかよくわからないのだ。何といえば良いのだろう?アルゴンの山の地面で寝てしまったとでも?自分にさえ、筋が通らない。

「わからないんだ。」どれくらい話せば良いかわからず、ソアが答えた。

「わからないって、どういうことなんだ?」オコナーが聞いた。

「迷ったんだよ。」ソアが言った。

「迷った?」

「でもちゃんと戻れてついていたじゃないか。」リースが言った。

「今日の任務に遅れたら、リージョンに戻れなくなるからな。」エルデンがそばに来て、がっしりした手をソアの肩に置いて言った。「会えて嬉しいよ。昨日はいなくて寂しかった。」

峡谷の向こう側での出来事以来エルデンの態度が変わったことは、今でもソアにとって衝撃的だった。

「姉とはどうだった?」リースがあわてた様子で聞いた。

ソアは、何と答えたものかよくわからず、顔を赤くした。

「会ったの?」リースがせっつく。

「会ったよ。」ソアが答え始めた。「楽しかった。でも急に戻らなければならなくなった。」

「そう」コルクと兵士たちの前に整列をしながらリースが続けた。「今晩もっと会えるよ。一番良い服を着ると良いよ。国王の饗宴だから。」

ソアは胃が痛んだ。夢のことを思い出して運命が目の前で踊っているような気がし、起こることを自分がただ見ているしかない無力感を感じた。

「静粛に!」少年たちの前を歩き始めたコルクが叫んだ。

皆口をつぐんで、ソアもそれとともに体を固くした。

コルクは、皆を観察しながら列に沿ってゆっくりと行き来した。

「昨日は楽しんだことだろう。今日は訓練に戻って、古来の溝堀り作業を行う。」

少年たちの間に不満の声が上がった。

「静かに!」コルクが叫ぶ。

少年たちが黙った。

「溝堀りは大変な作業だが」コルクが続けた。「重要な仕事だ。いつか、王国を守る仕事をするなかで、荒野で助けてくれる者もないという状況があるだろう。ものすごい寒さで、つま先の感覚もなくなるほどだ。夜の暗闇の中、温まるためなら何でもするだろう。あるいは戦闘のさなか、敵の矢を避けるために身を潜めなければならないかも知れない。側溝が必要になる理由は数え切れないほどある。側溝は最高の友だ。」 「今日は」コルクが咳払いをして続ける。「一日溝堀りを行う。手にたこができて赤くなり、背中が痛くなってもうこれ以上掘れないというところまでだ。これが戦いに出ている時なら、それもあまり悪いことには思えないだろう。」

「ついて来なさい!」コルクが叫んだ。

少年たちはコルクの後を追い、二列に別れてフィールドを行進しながら、またもやがっかりした声を出した。

「良いじゃないか」エルデンが言った。「側溝堀り。一日をこんな風に過ごしてみたかった。」

「もっと悪いことには」オコナーが言った。「雨が降るかも知れないんだよ。」

皆が空を見上げた。ソアは雲が空に立ち込めているのを見た。

「そうかも知れないな。」リースが言った。「縁起の悪いことは言うなよ。」

「ソア!」大声が聞こえた。

振り返ると、横のほうでコルクがこちらを睨んでいるのが見えた。コルクに向かって走りながら、何か悪いことでもしたかなと考えた。

「はい、上官どの。」

「お前の騎士どのが呼んでおられる。」コルクが素っ気なく言った。「城内の庭園にいるエレックのところへ行きなさい。お前はついているな。今日は任務を免れた。代わりに良き従者の務めとして騎士に仕えなさい。だが、側溝堀りから逃れられたとは思うな。明日戻ってきたら一人でやるんだ。さあ行け!」コルクが叫んだ。

ソアは振り返って、皆のうらめしそうな顔を見た。そしてフィールドから走り出て、城に向かった。エレックは何の用だろう?王に関係のあることだろうか?

*

ソアは宮廷を走り抜け、初めて通る道を曲がって行った。シルバーのバラックに向かう道だ。シルバーのバラックはリージョンのよりもずっと豪華だ。建物の大きさは二倍、銅で縁取りされている。歩道には新しい石が敷き詰めてあった。そこへ行くのに、ソアは大きなアーチ型の門を通らねばならなかった。12名の兵士が警護していた。歩道はそこから広くなり、広大な敷地へと延びている。そして、塀に囲まれ、数十名の騎士が警護する幾つもの石造りの建造物につながっていた。ここから見ても立派な外観だった。

ソアは小道を急いだ。遮るもののない敷地で目立つため、ソアがまだ遠くにいるというのに騎士は彼が近づくのを待ち受けている。前に進み出て槍を交差させて持ち、真っ直ぐ前を見ながら、ソアを無視して道を阻んだ。

「何の用だ?」一人が尋ねた。

「任務のために来ました。」ソアが答えた。「エレックの従者です。」

騎士たちは用心深い表情を見せたが、一人が前に出てうなずいた。他の者が槍の交差を解き、下がった。門の金属性の犬くぎがきしむ音を立てて上げられ、ゆっくりと開いた。扉は巨大で厚さ2フィートはある。城よりも守りを固めているとソアは思った。

「右側の二つ目の建物だ。」騎士が大声で言った。「エレックは馬屋にいる。」

ソアは宮廷への道を急いだ。石造りの建物をすべて記憶しながら通り過ぎた。ここでは何もかもが完璧に手入れされ、汚れ一つなく輝いている。強さを感じさせるオーラを放っていた。

ソアは目的の建物を見つけ、目の前の光景に目がくらんだ。見たこともないような大きくて美しい12頭の馬が、建物の外にきちんと整列してつながれていた。そのほとんどが鎧を身に着け、輝いていた。何もかもが大きくて立派だ。

本物の騎士たちがあちこちで馬を小走りさせていた。あらゆる武器を持ち、それぞれの門から出入りするため宮廷を通って行った。活気のある場所である。ソアは戦いの存在感を感じ取った。ここは訓練ではなく、戦いのための場所だ。生死を分ける。

ソアは小さなアーチ型の入り口を抜けて暗い石の通路を進み、エレックを探しながら馬屋を幾つも通り過ぎて駆けて行った。ソアは端までたどり着いたが、エレックは見つからなかった。

「エレックを探しているのか?」衛兵が尋ねた。

ソアは振り返って頷いた。

「そうです。私は従者です。」

「遅かったな。既に外に出て馬の準備をしている。早く行きなさい。」

ソアは通路を走り抜け、馬屋からフィールドに飛び出した。そこにエレックがいて、大きくて英雄然とした雄馬の前に立っていた。鼻の白い、輝く黒馬だ。ソアが着いた時、馬が鼻を鳴らし、エレックが振り向いた。

「申し訳ありません。」ソアが息を切らして言った。「できるだけ早く来ました。遅れるつもりはありませんでした。」

「ちょうど間にあった。」エレックが優しく微笑んで言った。「ソア、これがラニンだ。」馬を指して言った。

ラニンはそれに答えるかのように、鼻を鳴らして跳ねた。ソアは近寄って手を伸ばし、鼻を撫でた。ラニンはお返しに静かにいなないた。

「これは旅用の馬だ。いずれわかると思うが、階級によって騎士は何頭か馬を持っているのだ。騎馬試合用、戦闘用、そして長い一人旅用の馬だ。これはそなたにとっても最も親しい友となる馬だ。そなたのことが好きなようだ。良いことだ。」

ラニンは前にかがみ込み、ソアの手に鼻を押し付けた。ソアはこの生き物の素晴らしさに圧倒された。目に知性が光っている。気味が悪いくらいだ。ラニンがすべてを理解しているような気がした。

エレックの言ったことがソアを混乱させた。

「旅とおっしゃいましたか?」驚いて尋ねた。

エレックは馬具を締める手を止め、ソアの方を見た。

「今日は誕生日なのだ。25歳となった。特別な日だ。選択の日については知っているか?」

ソアは首を振った。「あまりよく知りません。他の人が教えてくれたことだけです。」

「我々リングの騎士は、世代から世代へと続いていかねばならない。」エレックが話し始めた。「25歳までに花嫁を選ばなければならない。それまでに選んでいない場合は、法律で選ぶことを義務付けられている。相手を見つけて戻るまで、一年間の猶予を与えられている。もし誰も選ばずに戻った場合は、王が相手を授ける。そして選択の権利は放棄することになる。そのため、今日私は花嫁を探す旅に出なければならない。」ソアは言葉を失い、見つめ返した。

「では、あなたは発たれるのですね?一年間?」

ソアはそのことを考えて落ち込んだ。世界が自分の周りで崩れて行くような気がした。今になって初めて、これほどエレックのことを慕っていたのに気づいた。ある意味で、彼はソアの父親のようだった。自分の実の父よりも父親らしかった。

「では、僕はどなたの従者になればよいのですか?」ソアが尋ねた。「それにどちらに行かれるのですか?」

ソアはエレックがどれほど自分の肩を持ってくれたかを思い出した。自分の命も救ってくれた。彼が行ってしまうということに心が沈んだ。

エレックは屈託なく笑った。

「どの質問から答えれば良いかな?」彼が言った。「心配しなくてよい。新しい騎士が割り当てられた。私が戻るまで彼の従者になるのだ。ケンドリック、国王の長男だ。」

ソアはそれを聞いて心が弾んだ。ケンドリックには同じくらい慕わしい気持ちを持っていた。最初に自分を目をかけて、リージョンでの居場所を確保してくれたのも彼だった。

「旅に関しては・・・」エレックが続ける。「まだわからない。わかっているのは南に行くということだけだ。私の故郷の王国だ。その方角で花嫁を探す。リングで見つからない場合は、海を越えて自分の王国まで行ってから探すかも知れない。」

「ご自身の国ですか?」ソアが尋ねた。

ソアはエレックのことをあまり知らなかったことに気づいた。どこから来たのかも。リング出身だとばかりずっと思ってきた。

エレックは微笑んだ。「そう、ここからずっと遠く、海を越えたところだ。それはまたいつか話そう。遠く、長い旅になる。支度をしなければならない。時間はあまりないので、手伝って欲しい。馬に馬具をつけて、武器を一通り載せておいてくれ。」

ソアは頭をフル回転させてすぐに行動に移った。馬の武器庫へ行き、ラニンの、すぐそれとわかる黒と銀の鎧を取ってきた。一度に一つずつ持って戻り、最初にかたびらを馬の背に載せ、大きな体の周りに腕を伸ばして垂らした。それから馬の頭を保護する、薄い板金の鎧を着けた。

ラニンはいなないたが、そうされるのが嫌ではなさそうだった。高貴な戦馬であることがソアにはわかった。騎士と同様、鎧を着けることに慣れていた。

ソアは走って戻り、エレックの金の拍車を取って来ると、エレックが馬に跨ってから両足に取り付けるのを手伝った。

「どの武器が必要ですか?」ソアは尋ねた。

エレックが見下ろす。ソアの位置からはとても大きく見える。

「一年の間にはどのような戦いに出会うか予測するのが難しいが、狩猟と、自分を守ることができるようにしておく必要がある。だからもちろんロングソードは必要だ。短剣、弓、矢筒と矢、短槍、槌矛、短刀、そして盾も持って行ったほうが良いだろう。そうしようと思う。」

「承知しました。」ソアはそう言うとすぐに行動に移した。ラニンの馬屋の脇にあるエレックの武器の棚まで走って行き、数十個もある武器を見回した。素晴らしい武器庫だ。

ソアは、エレックが指定した武器を注意深く取った。そして一つずつ運んでエレックに手渡したり、馬具にしっかりと取り付けたりした。

エレックは馬に跨りながら革のこてをしっかりとはめ、出発の準備をしていた。ソアはエレックが行ってしまうのを見るのが辛かった。

「この旅にお伴するのが私の務めかと思います。」ソアが言った。「私は従者ですから。」

エレックは首を振った。

「これは私一人で行かねばならない旅だ。」

「ではせめて、最初の交差路までお伴させていただいてもよろしいですか?」ソアが食い下がった。「南に向かわれるのでしたら、道は私もよく知っています。私も南から来ましたので。」

エレックは見下ろして、考えていた。

「最初の交差路まで一緒に来たいというのであれば、それは構わない。だが、今日は大変な旅となるので、もう出発しなければならない。馬屋の後方にいる従者の馬を連れてきなさい。茶色の馬でたてがみは赤だ。」

ソアは馬屋に走って戻り、馬を見つけた。それに跨ると、クローンがシャツから頭を出し、見上げて鳴いた。

「大丈夫だよ、クローン。」ソアは安心させた。

ソアは前にかがみ込み、馬を駆り立てて馬屋から飛び出した。エレックはソアが追いつくのをほとんど待たずに、ラニンとともに疾走を始めた。ソアは全力でエレックについて行った。

二人は共に馬で宮廷を出て、衛兵たちが後に下がって脇によけるなか、門を通り抜けた。シルバーの団員何名かが整列して待ち、見守っていた。そしてエレックが通り過ぎる時、礼としてこぶしを挙げた。

ソアはエレックの脇を従者として馬で走りながら、誇らしい気持ちだった。最初の交差路までではあっても、同行することで胸が高鳴った。

ソアがエレックにまだ言っていないこと、聞きたいことはまだ山ほどあった。そして感謝したいこともたくさんあった。だが、時間がなかった。二人は南へと全速力で走り、平野を横切った。地形は絶えず変化し、二頭の馬は昼近い午前中の太陽の光を浴びてキングスロードを進んで行った。丘を越えると、遠くでリージョンのメンバー全員が背中を痛めながら側溝を掘っているのがソアから見えた。その中にいなくてよかったと思った。そのうちの一人が手を止め、こちらに向かってこぶしを宙に挙げているのが見えた。太陽の光でよく見えなかったが、リースが挨拶をしているに違いないと思った。馬を走らせながら、ソアもこぶしを挙げて返した。

舗装された道は、手入れのされていない田舎道に代わった。狭くてでこぼこの道が、更に田園地帯を通る踏みならされているとも言えないような道になった。ソアは、こうした道を普通の者が一人で通るのは危険なことを知っていた。特に、盗賊が潜んでいる夜はそうだった。だが、ソアは自分は心配が要らないと思った。エレックがついていれば尚更だ。もし盗賊が襲ってきたとしても、心配なのはむしろ盗賊の命のほうだった。もちろん、シルバーの団員の行く手を阻もうと考える盗賊はどうかしている。

二人はほとんど休みもとらずに一日馬に乗り続けた。ソアは疲れて息が切れてきた。エレックのスタミナは信じられないくらいだ。ソアはそれでも、自分が弱虫に見えるのを恐れ、疲れていることをエレックに気づかれないようにした。

二人は大きな交差路を過ぎた。ソアは見覚えがあった。ここを右に行けば、自分の村に出る。一瞬懐かしさで胸が一杯になり、そのまま進んで父に会い、村を見たいと思う気持ちが湧いた。父は今羊の世話をしながら、どうしているだろうかと思った。自分が戻らなかった時どれほど怒っただろうかと考えた。父のことを心配したという訳ではない。慣れ親しんだものを少しだけ恋しくおもっただけだった。ソアは実際、あの小さな村から逃れたことでほっとしていた。そして心のどこかでは二度と戻りたくないとも思っていた。

二人は南へと疾走を続けた。ソアが行ったことさえない領域にも入った。南の交差路のことは聞いたことがあったが、自分が行く理由は今までなかった。リングの南部につながる3つの大きな交差路の一つだ。宮廷からはもう半日の道のりを来た。太陽はもう高くなっている。ソアは汗だくで息を切らし、今夜の王の饗宴に間に合うように戻れるだろうかと恐怖を感じながら考え始めた。これほど遠くまでエレックについてきたのは間違いだったろうか?

丘の頂上を回り、ソアはついに、地平線の向こうに紛れもない最初の交差路の標識を見た。大きな細い塔が目印で、王の旗が四方にはためいている。胸壁ではシルバー騎士団の団員が警護についていた。エレックを見て、塔の上にいる騎士がトランペットを吹いた。守衛詰所がだんだん見えてきた。

二人は数百ヤードしか離れていなかった。エレックは馬の速度を緩めて歩かせた。ソアは、これがエレックと過ごす最後の数分なのだと思って胃が締め付けられた。今度会えるのはいつかわからない。戻るかどうかさえ、誰にもわからない。一年は長い。どんなことでも起きる可能性がある。ソアは、こうして同行するチャンスがあったことを嬉しく思った。務めを果たした気がした

二人は並んで馬を歩かせた。馬はいずれも荒く息をしている。そして塔に近づいた。 「しばらく会わないことになるな。」エレックが言った。「戻った時には、花嫁が一緒だ。状況が変わるだろう。だが何があっても、そなたはいつも私の従者だということを分かっていて欲しい。」

エレックは深呼吸をした。

「出発前に、覚えておいて欲しいことが幾つかある。騎士は力では生まれない。知性から生まれるのだ。勇気だけでは騎士にはなれない。勇気、名誉、知恵がすべて合わさらなければならない。自分の精神、頭脳を完璧に近づけていかなければならない。騎士道は受身でなく、自ら動くものだ。それに向けて、毎日どの瞬間も自分を高めていかなければならない。」

「この期間に、そなたはすべての武器、すべての技について学ぶであろう。だが覚えておいて欲しい。戦いにはもう一つの次元がある。魔術師の次元だ。アラゴンを探し求めなさい。そなたの隠れた力を伸ばすよう学ぶのだ。そなたにはそのような力があるのを感じる。偉大な力を秘めている。恥ずかしがるようなことではない。わかってくれたか?」

「はい」エレックの知恵と理解への感謝で胸が一杯になり、ソアが答えた。

「私がそなたの面倒を見ることにした理由がある。そなたには他の者とは違う、偉大な運命がある。恐らく、私の運命よりももっと大きなものだろう。だがまだ成就されてはいない。それが与えられていることを当たり前だと思ってはいけない。それに向けて働きかけなければだめだ。偉大な戦士になるには、怖いもの知らずで、かつ技を身につけさえすれば良いというものではない。戦士の精神を持ち、常にそのことを念頭に置き、他の者のために自分の命を捨てる覚悟がなければならない。最も偉大な騎士は、富や栄誉、名声、栄光などを求めたりしない。最も難しい探求、自分自身をより高めることを選ぶ。日々、より良くなるように努めなければならない。他人よりも優れた人になるばかりでなく、自分自身を超えるのだ。自分よりも小さい者たちのための大義を追い求め、自分で自分を守ることのできない者たちを守らなくてはならない。この探求は呑気な者のためのものではない。英雄のものだ。」

ソアは考えながらエレックの言葉を注意深く聞き、すべてを取り込もうとして頭がクラクラした。エレックへの感謝の気持ちであふれ、どう答えたら良いかわからなかった。その言葉がしっかりと自分の中に落ちるまでは長い年月がかかるのだろうと感じた。最初の交差路の門に近づいた。到着すると、シルバーの団員数名がエレックに挨拶をするために出てきた。満面の笑みをたたえて馬で近づいて来る。エレックが馬から下りると、旧友らしくエレックの背中を強く叩いた。

ソアも馬から飛び降りた。ラニンの手綱を握り、餌付けをし、撫でてやるために門番のところへ引いて行った。ソアはそこに立ち、エレックが最後に振り向いて彼を見た。別れの瞬間に、ソアは言いたいことがたくさんあった。感謝をしたかった。それと同時にすべてを話してしまいたかった。前兆のこと。夢のこと。国王に関する懸念。エレックならわかってくれるだろうと思った。

それでもできなかった。エレックは騎士たちに囲まれている。ソアは、エレックも皆も自分のことを頭がおかしいと思うに違いないと恐れた。そしてエレックが最後に近づいてソアの肩をつかんだ時も、黙って立っていた。

「国王を守るんだ。」エレックが強い口調で言った。

その言葉はソアの背筋をぞっとさせた。まるでエレックが自分の心を読んだかのようだ。

エレックは振り向いて、他の騎士たちと一緒に門を歩いて出て行った。皆がソアに背を向けたまま通り過ぎる時、門の金属製の犬釘がソアの後ろでゆっくりと降りていった。

エレックは行ってしまった。ソアは信じられない思いだった。みぞおちの辺りに引っかかるようなものを感じた。次に会えるのは一年も先かも知れない。

ソアは自分の馬にまたがり、手綱を握ると思い切り蹴った。もう午後だ。饗宴に間にあうには、あと半日馬を走らせなくてはならない。エレックの最後の言葉がスローガンのように頭の中でこだましていた。

王を守れ。

王を守れ。

第二十八章

ソアは暗い中、必死に馬を走らせた。宮廷の最後の門を急いで通り過ぎ、スピードを緩めることもなく馬から飛び降りた。激しく息をしながら、付き人に手綱を渡した。 一日中馬に乗っていた。陽は何時間も前に沈み、中で松明が灯されているのがすぐに見えた。門の向こう側で宴会がたけなわなのが聞こえてきた。彼はこれほど長く留守にしていたことを悔やみ、間にあうことをひたすら祈った。

ソアは近くにいた付き人に走り寄った。

「中ではすべてうまく行っていますか?」急いで尋ねた。国王が無事であることを確かめなくてはならない。もちろん、毒を盛られたかなどと露骨に尋ねるわけにはいかない。

付き人は首を傾げてソアを見た。

「そうでない訳がないだろう。君が遅れたこと以外は、すべてうまく行っている。リージョンのメンバーはいつだって時間に正確だ。それに服が汚れている。リージョンの仲間のイメージを悪くするぞ。手を洗って早く中に入れ。」

ソアは門を急いでくぐり抜けた。汗をかいていたので、水で満たされた石の水盤に手を入れ、顔にかけ、長い髪で拭いた。朝早くからずっと動き続けていて、道のほこりにまみれている。まるで今日一日の間に10日経ったかのようだ。深呼吸をして自分を落ち着かせ、穏やかに見えるよう努め、宴会場の扉へと速足で回廊から回廊を渡って行った。

巨大なアーチ型の扉から中に足を踏み入れると、夢とまったく同じだった。目の前には、長さが少なくとも100フィートはある宴会用のテーブルが二つあり、そのはるか向こう側に、王が周りを人に囲まれて自分用のテーブルの端に座っている。騒音が生き物のようにソアを襲う。広間は人であふれている。兵士だけでなく、シルバーの団員やリージョンのメンバーも饗宴のテーブルについている。その他、何百名もの人々、旅回りの音楽家の一座、踊り子の集団、道化師、娼館の女性たちが数十名・・・。召使や衛兵もいれば、犬も走り回っていた。蜂の巣をつついたようだった。

男たちは大きなゴブレットからワインやビールを飲んでいた。そのほとんどは立ったまま、酒を飲む時の歌を歌い、肩を組み、杯を鳴らしていた。テーブルにはご馳走が山のように並び、暖炉の前では串に刺したイノシシや鹿などあらゆる狩りの獲物を焼いていた。半分の人々はご馳走にありつき、あとの半分は歓談に興じていた。室内の混乱ぶり、男たちの酔った様子を見て、ソアは、もし自分がもっと早く、宴会が始まった時にでも到着していたら、会はもう少し秩序あるものになっていただろうと思った。 これほど遅い時間になったために、酔っ払いのどんちゃん騒ぎと化したようだった。ソアは最初の反応として、圧倒されたのは別として、王が生きていることにほっと胸をなでおろし、安堵の息を漏らした。大丈夫だった。ソアは再び、あの前兆は、あの夢は何も意味がなかったのだろうかと考えた。自分は幻想に過剰反応していたのだろうか、実際よりも頭の中で膨らませてしまったのだろうか。それでも、その感覚を振り払うことができなかった。まだ、王のところへ行き、警告をしなければという切迫感を感じていた。

王を守れ。

ソアは人ごみをかき分けて、王のもとへと長い距離を進もうとしたが、なかなか進めない。男たちは酔っ払って騒ぎ立て、混んでいて肩と肩がぶつかる。マッギルはいまだ数百フィート先だ。

ソアは人ごみの中、やっと半分くらいの距離を進んだところで足を止めた。グウェンドリンを見つけたのだ。広間の脇のほうで、召使たちに囲まれて小テーブルの一つについている。不機嫌そうな顔をしていて、彼女らしくなかった。食べ物や飲み物にも手をつけていない。端のほうに寄って、他の王族たちからも離れている。何があったのか、とソアは思った。

ソアは人ごみから離れて彼女のところへ行った。

グウェンは目を上げてソアが近づいて来るのを見たが、いつものように微笑む代わりに、暗い顔になった。初めて、ソアは彼女の目に怒りの色があるのを見た。

グウェンは椅子をずらし、立ち上がって背を向け、立ち去ろうとした。

ソアはまるでナイフを心臓に突き刺されたような気がした。グウェンの反応が理解できない。僕は何か間違ったことをしただろうか?

テーブルの周りを急いで回り、グウェンのところに駆け寄って手首を優しくつかんだ。

彼女はその手を乱暴に振り払い、振り向いてソアに向かって怒鳴った。ソアは驚いた。

「触らないで!」グウェンが叫んだ。

ソアはその反応にショックを受けて後ずさりした。これが自分の知っているグウェンドリンと同じ人だろうか?

「すみません」彼は言った。「悪気はありません。無礼を働くつもりもありませんでした。ただ話したかっただけです。」

「何も話すことはないわ」彼女は怒りを露わにして言った。目には怒りがにじみ出ている。

ソアは息もできなかった。何か悪いことをしたのか、さっぱりわからなかった。

「王女様、教えてください。何か間違ったことをして怒らせてしまったのでしょうか?それが何であれ、お詫びいたします。」

「あなたがしたことは取り返しがつかないのよ。どんな謝罪も十分ではないわ。あなたはそういう人なのね。」

彼女はまた行こうとした。ソアは心のどこかで、そのままにさせたほうがよいと思っていた。だが、別の自分は彼女がただ立ち去ることに我慢できなかった。あのような時間をともに過ごした後では。知らなければならない。なぜ彼女が自分をこれほどまでに嫌うのかを。

ソアはグウェンの前まで走って行き、道を塞いだ。こんな風に行かせるわけにはいかない。

「グウェンドリン、僕が何をしたのかせめて知るチャンスだけでもくれないか。お願いだ。それは教えてくれ。」

グウェンは、手を腰に当て、腹の虫が収まらないと言う顔で睨み返した。

「わかっていると思うけど。よくわかっているはずだわ。」

「わからない」ソアは一生懸命に言った。

グウェンはソアを吟味するように見つめた後、やっと彼の言葉を信じたようだった。 「この間会う前の夜、娼館にあなたが行っていた、っていう話を聞いたの。大勢の女の人を誘惑して、夜通し楽しんでいたって。そして夜が明けたら、私のところへ来たのよ。これで思い出した?そんなことをするなんて、むしずが走るわ。あなたと会ったこと、私に触れたこと自体に嫌気が差したの。あなたの顔なんか二度と見ないで済めばと思ったわ。私のことを笑いものにしたのよ。他に誰も私のことをばかになんかしないわ!」 「王女さま!」ソアは彼女を止めて説明をしようとして叫んだ。「それは間違いだ!」

だが音楽家たちが二人の間に入り、グウェンは走り出して会衆の間をすり抜けて行ってしまった。あまりの速さにソアは彼女を見つけられなかった。あっという間にグウェンを見失った。

ソアははらわたが煮えくり返っていた。誰かが彼女に良からぬことを吹き込み、自分に関してこんな嘘を伝えて、彼女が自分に背を向けるようしむけたのだということが信じられなかった。誰が背後にいるのかと思った。そんなことはあまり問題ではない。彼女との関係がもうだめになってしまった。死にそうな気持ちだった。

ソアは振り返って室内をふらふらと歩いた。王のことを思い出した。心はすっかり空っぽになり、生きる目的など全く残っていないかのようだった。

ソアが数フィートも行かないうちにアルトンが突然現れ、道を塞いで満足そうな笑みを浮かべながら軽蔑の眼差しで見下ろした。絹のスパッツを履き、ベルベットのブレザーを着て羽根付きの帽子をかぶっていた。長い鼻とあごを持つ顔で、この上もない傲慢さと自信を持ってソアを見下ろした。

「あれあれ」彼は言った。「平民じゃないか。将来の花嫁はここで見つかったかな?もちろんまだだろうね。娼館での君の偉業の噂はもう広まっているんじゃないかと思うが。」アルトンは小さな黄色い歯を見せながらにやりと笑って、すぐそばまでかがみ込んできた。「実際、もう広まったと思うね。」

「皆が何て言うか知っているだろう。ほんのわずかでも真実があれば、噂は広まるって。そのわずかな真実とやらを見つけたんだよ。今じゃ君の評判は地に落ちたね。」ソアは腹にすえかね、もう我慢が出来なくなった。飛びかかってアルトンのはらわたを殴った。アルトンは倒れた。

その直後に、たくさんの人間がソアの上にのしかかってきた。リージョンの仲間たちや兵士が間に入り、二人を引き離した。

「ちょっと行きすぎだぞ、坊主!」アルトンが自分を押さえている者たちの上からソアを指差し、言った。「誰も王族に触れてはならない!生涯さらしの刑になるぞ!逮捕させる!よくわかっておけ!朝一番にお前のところに行くようにするからな!」アルトンが叫び、振り向いて行ってしまった。

ソアはアルトンや彼の衛兵のことなどこれっぽっちも気にならなかった。王のことだけ考えていた。リージョンのメンバーを振り払い、マッギルのほうへ向いた。人の間を掻き分けて、王のテーブルへと向かった。心の中では様々な感情が揺れ動いていた。こんな展開になったことが信じられなかった。評判が上がってきたというのに、邪悪な蛇にすべてを台無しにされるためにここにいるというのか。好きな人をアルトンに騙し取られるために。そして明日、投獄される恐れがある。王妃が自分に反対する勢力と手を組んでいる以上、あるいはそうなるかも知れない。

しかしソアには、今はそんなことはどうでもよかった。気になっているのは王を守ることだけだった。

人ごみをかき分けて更に進んだ。演技中の道化師にぶつかり、3人の付き人も押しのけて、王のテーブルにたどり着いた。

マッギルはテーブルの中央に座っていた。顔を赤くして片手に大きなワインの皮袋を持ち、余興を見て笑っていた。トップの将軍たち全員が王を囲んでいる。ソアは彼らの前に立ち、ベンチまで進んだところでやっと王がソアに気づいた。

「王様」ソアが、自分の声の必死さに気づきながら言った。 「どうしてもお話があります!お願いいたします!」

衛兵が来てソアを引き離そうとしたが、王が手を挙げた。

「ソアグリン!」ワインでほろ酔い気味のマッギルが低く、王にふさわしい堂々とした声で言った。「そなたはなぜこのテーブルに近づいてきたのか?リージョンのテーブルはあそこだ。」

ソアは低くお辞儀をした。

「王様、申し訳ございません。ですが、どうしてもお話があります。」

音楽家がソアの耳元でシンバルを鳴らした。マッギルが止めるよう合図した。

音楽は静かになり、将軍たちも皆振り向いてソアを見た。ソアは注目が自分に集まっているのを感じた。

「さあ、ソアグリン、話すがよい。明日まで待てないこととは何なのだ?」マッギルが言った。

「陛下」ソアは言い始めたが、言いよどんだ。何を言えばよいのか?夢を見たこと?前兆を見たこと?王に毒が盛られると感じたこと?とっぴな話に聞こえないだろうか?

だが、選んでいる余地はなかった。言わなければならない。

「陛下、私は夢を見ました。」ソアが言い始めた。「陛下の夢です。この大広間で、その夢は・・・陛下はお酒を飲んではなりません。」

王は前にかがんで、目を見開いた。

「私が飲んではいけないと?」王がゆっくりと、大きな声で繰り返した。

驚いて沈黙した後に、マッギルは反り返って大きな声で笑った。テーブル全体が揺れた。

「私が酒を飲んではいけないと!」マッギルが繰り返した。「何と言う夢だ!悪夢とでも呼ぼうか!」

王は反り返り、大声で笑い続けた。家来たちも笑った。ソアは顔が赤くなったが、ひかなかった。

マッギルが合図をし、衛兵が前に進んでソアを連れて行こうとしてつかんだ。だが、ソアは衛兵の手を乱暴に引っ張って自分から振り払った。決意が固かった。王にメッセージを伝えなくては。

王を守れ。

「陛下、お聞きくださるようお願いします!」ソアが赤い顔をし、前に進み出てテーブルをこぶしで叩いて叫んだ。

テーブルが揺れ、全員が振り向いてソアを見た。

驚きの沈黙があった。王の顔がゆがんだ。

「私に命令をするのか?」マッギルが叫んだ。「私に命令などできないぞ!」王はが立腹して叫んだ。

テーブルは更に静まった。ソアは屈辱で顔が赤くなった。

「陛下、お許しください。無礼なことをするつもりはございません。ただ陛下の安全を心配しております。お願いです。飲まないで下さい。陛下が毒を盛られる夢を見ました!お願いいたします。陛下のことが心配なのです。それだけが理由で申し上げております。」

マッギルの睨んだ顔がゆっくりと元に戻った。ソアの目の奥をみつめ、息をついた。「よかろう。そなたが心配してくれているのはわかった。おかしな少年だとしてもだ。無礼は許して遣わす。もう行きなさい。朝までもう顔を見せないように。」

王が合図をし、衛兵がソアを今度は無理やり引っ張って行った。テーブルは楽しい雰囲気を取り戻し、皆再び酒を飲み始めた。

ソアは数フィート引いて行かれた。憤慨していた。今夜したことに対する不安があり、明日のそのつけを払わなければならないのではと気持ちが沈んだ。ここを追い出されるかも知れない。永遠に。

衛兵が最後にもう一度強くソアを押した。そして、王から20フィートほど離れたリージョンのテーブルに着いた。肩に手が置かれるのを感じて振り向くとリースが立っていた。

「一日中探してたんだよ。何があったの?」リースが尋ねた。「幽霊でも見たような顔をしてるよ!」

ソアは打ちのめされていて答えられなかった。

「一緒に座ろう。席を取っておいたんだ。」リースが言った。

リースは自分の隣にソアを座らせた。王族のために用意されたテーブルだった。ゴドフリーは酒を両手に持ち、その脇にはガレスが座り、きょろきょろと辺りを見回していた。ソアはグウェンドリンもそこにいたらと願ったが、いなかった。

「一体何なんだ、ソア?」リースが隣に座り、せかした。「まるで自分に噛み付いてくるみたいにこのテーブルを見たりして。」

ソアは首を振った。

「言っても信じないだろう。だからしゃべらないのが一番だ。」

「話してよ。何でも言って良いから。」リースがしきりに促した。

ソアはリースの目を見て、やっと自分の言うことをまともに信じてくれる人がいたと思えた。深呼吸をすると、ソアは話し始めた。失うものは何もない。

「この間森で、君のお姉さんと一緒にいる時、ホワイトバックを見た。グウェンはそれが死の前兆だと言った。僕はそれを信じた。それでアルゴンのところへ行って尋ねたら、死が訪れるのは確かだと言っていた。そのすぐ後で君のお父上に毒が盛られる夢を見たんだ。今夜この広間で。僕にはそれが本当だという確かな予感がする。王様には毒が盛られる。誰かが暗殺しようとしているんだよ。」

ソアは急いで全部を話したが、打ち明けて心の重荷がおろせたのは良かったと思った。耳を傾けてくれる人がいるのは良いものだ。

リースは黙ってソアの目をしばらく見つめていた。そして話し始めた。

「純粋に言っていると思う。僕は疑っていない。そして父のことを気にかけてくれて、ありがたいと思うし、僕は信じる。けれど、夢は厄介だ。考えている通りにはいかない。」

「陛下にはお伝えした」ソアが言った。「そうしたら皆笑ったよ。間違いなく、陛下は今夜お酒を飲むと思う。」

「ソア、僕はその夢を見たことを信じる。そしてこういう風に感じていることも。でも、僕もひどい夢を今までずいぶん見た。この間は城から追い出される夢で、起きた時には本当にそんな感じがしたんだ。でもそうじゃなかった。わかるかな?夢っておかしなものだね。そして、アルゴンは謎めいた言い方をする。そんなに深刻に考えたらいけないよ。父は大丈夫だから。僕もね。みんなそうだ。座って何か飲んでくつろいだら。楽しもうよ。」

そう言うと、リースは毛皮に覆われた椅子にふんぞり返り、飲んだ。召使いに合図をすると、ソアの前に大きな鹿の肉と飲み物のゴブレットが置かれた。

だがソアは座ってただ食べ物を見つめるだけだった。自分の人生が崩れていくような気がしていた。何をしてよいのかわからなかった。

彼は今でも夢のことしか頭になかった。まるで動く悪夢の中にいるようなものだった。そこに座って、皆が自分の周りで酒を飲み、ご馳走を食べるのを見ていた。ソアにできることは、王のところに運ばれるすべての飲み物、ゴブレットを観察することだけだった。ソアは給仕とワインのゴブレットをすべて監視し、王が飲む度にギクリとした。

ソアは取り付かれたようだった。目を離すことができない。何時間もずっと観察しているような気がした。

ついにソアは、他とは異なるゴブレットを召使が持って王に近づくのに気づいた。大きく、はっきり金だとわかるゴブレットで、ルビーとサファイヤが並んであしらってある。

ソアの夢に出てきたゴブレットそのものだ。

ソアの心臓が激しく打った。召使が王に近づくのを見て恐怖におののいた。一歩手前まで迫った時、ソアはもう我慢ができなくなった。自分の全身が、これが毒のゴブレットだと言っている。

ソアはテーブルを飛び出し、道を阻む者はすべて肘で押しのけ、人込みの中を走って行った。

王がそのゴブレットを手に取った瞬間、ソアがテーブルに飛びつき、手を伸ばして王の手からゴブレットを奪った。

ゴブレットが王の手から宙を飛び、石にぶつかって固い音を立てた時、恐怖で息をのむ音が広間全体を包んだ。

広間が沈黙に包まれた。音楽家、ジャグラーも手を止めた。何百人もの男女が振り向いて目を向けた。

王はゆっくりと立ち上がり、ソアを睨みつけた。

「一体どうしたらこんなことができるのか!」王が叫んだ。「不届者め!この所業に対し、さらし刑に処する!」

ソアは恐怖で立ち尽くした。全世界が自分の上に崩れ落ちてきた感じだった。消えてしまいたかった

突然、床にできたワインの水溜りのところへ犬が歩いてきてピチャピチャとなめた。ソアが反応し、室内の人間が行動を起こす前に、すべての目が犬に注がれた。犬が恐ろしい声を上げ始めたのだ。

次の瞬間、犬は体が固くなり脇を下にして倒れ、死んだ。そこにいた全員が恐怖ではっとなり、犬を見た。

「お前は飲みものが毒だと知っていた!」声が上がった。

ソアが振り向くと、王子のガレスが王のそばにやってきてソアを非難するように指差していた。

「お前自身が企んだのでない限り、毒が入っていたことがどうしてわかるのだ?ソアが王に毒を盛ろうとしたのだ!」ガレスが叫んだ。

会衆が皆怒りの声を上げた。

「この者を牢獄へ連れて行け。」王が命じた。

すぐにソアは衛兵たちに後ろから乱暴に掴まれ、広間の中を引いていかれた。ソアは身をよじり、抵抗しようとした。

「違う!」彼は叫んだ。「おわかりになってないのです。」

誰も聞いていなかった。会衆の間をあっという間に引いていかれた。その間、皆が自分から離れて行き、自分の全人生も消えていくのを見た。ソアと衛兵たちは広間を横切り、脇の扉から出て、その後ろで扉がバタンと閉まった。

そこは静かだった。次の瞬間、ソアは自分が降りていくのを感じた。何人もの手で、曲がりくねった石段を引いて行かれた。どんどん暗くなる。そしてすぐに囚人たちの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

小部屋への鉄の扉が開いた。そして自分がどこに入れられるのかを悟った。牢獄だ。

ソアは体をくねらせ、放してもらおうと抵抗した。

「わかっていない!」彼は叫んだ。

ソアは看守が前に進んでくるのが見えた。ひげも剃らず、黄色い歯をした大きくてがさつな男だ。

彼がソアを睨んだ。

「よおくわかっているさ。」耳障りな声がした。

彼が腕を引いた。ソアが最後に見たのは、この男のこぶしが自分の顔に向かってくる瞬間だった。

そして目の前が真っ暗になった。

Yaş sınırı:
16+
Litres'teki yayın tarihi:
10 ekim 2019
Hacim:
132 s. 4 illüstrasyon
ISBN:
9781632910141
İndirme biçimi:
Metin
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