Kitabı oku: «英雄たちの探求 », sayfa 7

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第二十章

ソアはリースとともに、宮廷のアーチ型の門から出て、リージョンのバラックに向かう田舎道を歩いていた。衛兵は二人が出て行く際に直立不動の姿勢をとった。ソアは自分はよそ者ではない、という帰属意識を感じた。ほんの数日前、衛兵が自分を外まで追いかけてきた時のことを思った。短い間にどれだけ大きな変化があったことだろう。

ソアが甲高い鳴き声を聞いて見上げると、頭上高いところにエストフェレスがいた。円を描いて飛び、下を見ている。エストフェレスは急降下し、喜んだソアは金属のこてを着けたままの手首を差し出したが、鳥は再び舞い上がった。空高く飛び去ったが、視界から離れることはない。ソアは考えた。不思議な生き物である。ソアは口では説明できない、この鳥との強い絆を感じた。

ソアとリースは黙ったままバラックへと早足で歩き続けた。仲間が待っているのがわかっていて、どんな風に迎えられるのかと考えた。ねたみや嫉妬があるだろうか?注目を集め過ぎて怒っているだろうか?峡谷からかつぎ出されたことでからかわれるだろうか?あるいは、やっと仲間と認めてくれるだろうか?

ソアは後者であってくれればと願った。リージョンの仲間ともめるのはもうこりごりで、何よりもただ打ち解けたかった。仲間と認めてもらいたかった。

バラックが遠くに見えてきた。ソアの心は別のことでいっぱいになってきた。グウェンドリンのことだ。

ソアは、リースの姉のことだけに、この件についてリースにどれだけ話して良いものかわからなかった。だが、彼女のことを頭の中から消し去ることができなかった。あの脅迫的な王族、アルトンと会った時のことも考えずにはいられなかった。彼の言ったことはどれくらい真実なのだろうかと思った。このことをリースと話すのを恐れる部分が自分の中にあった。彼をがっかりさせたくないし、姉のことで新しくできた友達を失いたくはなかった。一方で、考えていることを知りたいと思う自分もいた。

「アルトンてどんな人なの?」ソアは躊躇しながらもとうとう尋ねた。

「アルトン?」リースがおうむ返しに言った。「何で彼のことを聞くの?」

ソアは肩をすくめた。どれくらい話して良いものかよくわからなかった。

幸い、リースが続けてしゃべった。

「身分の低い王族で、脅迫的な奴だ。国王のまたいとこの子だ。でも何で?何か君を狙う理由でもあるのかな?」そこでリースは目を細めた。「グウェンだな?そうだろ?警告しておけばよかったな。」

ソアは振り向いてリースの方を見た。もっと聞きたかった。

「どういうこと?」

「あいつは武骨者だ。よちよち歩きのころから姉を追いかけている。自分では二人は結婚するんだって信じてる。母もそうみたいだ。」

「本当に結婚するの?」ソアは聞いた。自分の声の必死さに自分でも驚いた。

リースは彼をみて微笑んだ。

「おいおい、グウェンにまいってるんだな?」リースが含み笑いをした。「ずいぶんあわててたよ。」

ソアは顔が赤くなった。そんなに露骨でなかったことを祈った。

「どうするかは姉があいつをどう思っているかによる。」リースがやっと答えた。 「結婚を強いられない限り。父はそんなことしないと思うな。」

「彼女はどう思っているんだ?」ソアはせかした。詮索し過ぎかも知れないと心配しつつも、知りたかった。

リースは肩をすくめた。「本人に聞かないと。そんな話、僕はグウェンとしたことがないよ。」

「お父様は結婚をさせるだろうか?」ソアが聞いた。「本当にそんなことなさるかな?」

「父は自分が望むことなら何でもできる。でもそれは父とグウェンとの問題だ。」

リースは顔を向けてソアを見た。

「どうしてこんな質問をするんだい?どんな話をしたの?」

ソアは赤くなった。何と言ったら良いかわからない。

「何にも。」やっと言った。

「何にもって!」リースは笑った。「何にもがたくさんあるみたいだけど!」

リースが激しく笑ったので、ソアは、グウェンが自分のことを好きだと思っていただけなのかと思い、恥ずかしくなった。リースが手を伸ばし、ソアの肩の上にしっかりと置いた。

「友よ、聞け」リースが言った。「グウェンについてはっきりわかっているのは、彼女は自分が欲しいものをよくわかっている、ということだ。そして欲しいものは手に入れる。いつだってそうだ。父と同じで意志が強いんだ。誰も姉に言うことを聞かせることができない。好きでもない人を好きにならせることも。だから心配は要らない。姉が君を選んだら、信じてもらっても良いが、彼女は君にそう言うよ。わかったかい?」 ソアはうなずいた。リースと話した後は、いつも気が楽になる。

目を上げると、リージョンのバラックへの大きな門が目の前に見えた。門のところに少年たち数人が、まるで二人を待っているかのように並んでいるのを見て驚いた。もっとびっくりしたのは、彼らが笑っていて、ソアを見て歓声を上げたことである。皆が走り出てきてソアの肩をつかみ、ソアの周りに腕を回し、引き寄せた。ソアは皆から歓迎の抱擁を受けたことに驚いた。

「峡谷のことを話してくれよ。向こう側はどんなだった?」一人が質問した。 「生き物はどうだった?君が倒した奴。」他の少年が聞いてくる。

「僕は殺してないよ。」ソアが反論する。「エレックがしとめたんだ。」

「エルデンの命を救った、って聞いたよ。」他の者が言った。

「怪物に真正面から攻撃したって聞いた。武器も持たずに。」

「君は僕たちの仲間だ!」一人が叫んた。他の少年たちは歓声を上げて、まるでずっと行方不明だった兄弟であるかのように、ソアに付き添った。

ソアには信じられなかった。皆の言葉を聞けば聞くほど、彼らの言うことはもっともだと思うのだった。確かに自分には勇気があったのかも知れない。考えたこともなかった。しばらくぶりに、自分に自信を持ち始めた。何よりも、今やっとこの少年たちの仲間になれた気がしていた。肩の緊張が解けていくのを感じた。

ソアは大訓練場に案内された。彼の前には更に数十名のリージョンのメンバーと、数十名のシルバーの騎士たちが立っていた。ソアを見るなり、彼らもまた喝采を送った。皆、前に出て来てソアの背中をたたいた。

コルクが前に進み出て、皆が静まった。コルクからは今まで侮辱しか受けなかったので、ソアは身構えた。しかし今回は、ソアが驚いたことに、違った表情を見せた。微笑むとまではいかなかったが、しかめ面もしていなかった。コルクの目に称賛の色が見えたのをソアは賭けることもできただろう。

コルクは前に進み、黒いハヤブサの小さなブローチを掲げた。そしてソアの胸につけた。

リージョンのブローチである。ソアは入隊を認められた。とうとう一員になれたのである。

「西王国、南の地方のソアグリン。」コルクが厳かに言った。「そなたをリージョンの一員に迎える。」

少年たちが歓声を上げてソアのほうへ走り寄り、腕を回してソアを揺すった。

ソアには全てを把握することなどできなかった。そうしないようにした。今はただこの瞬間を楽しみたい。やっと自分の居場所ができたのだから。

コルクが他の少年たちに向き直り、「さてそれでは、皆静粛に」と命令した。 「今日は特別な日である。熊手の作業も、武器磨きも馬の糞の始末も今日はもうない。訓練を行う。今日は武器を扱う日とする。」

少年たちは興奮の叫び声を上げ、コルクが訓練場を横切って行くのに従い、輝くブロンズ製の扉のある樫でできた円形の建物まで後を追った。ソアも彼らが近づくと共に歩いた。熱狂した雰囲気が漂っていた。すぐそばにリースがいて、オコナーも合流した。

「生きた君にまた会えるとは思わなかったよ。」微笑み、ソアの肩を叩きながらオコナーが言った。「今度は、僕を最初に起こしてくれるかい?」

ソアが微笑み返した。

「あの建物は何だ?」近づくにつれソアがリースに尋ねた。大きな鉄の鋲が扉じゅうにあり、重々しい存在感のある場所だ。

「武器庫だよ。」リースが答えた。「リージョンの武器がすべて保管されているところだ。時々見せてもらえて、訓練に使える物もある。教官がどのような演習を授けたいかによる。」

ソアはエルデンがこちらに向かって来るのに気づいた。胃が締めつけられ、脅かされるのを予測して警戒した。だが今のエルデンは、感謝の気持ちが顔に表われていた。ソアは驚いた。

「お礼を言わないとならない。」エルデンは謙虚に下を向きながら言った。「君は命を救ってくれた。」

ソアは困惑した。このようなことは予測していなかった。「僕は君のことを誤解していた。」エルデンが付け加えた。「友達になれるかな?」エルデンがそう聞いて、手を出した。

ソアは根に持つタイプではない。喜んで手を差し出しエルデンの手を握った。 「友達だよ。」ソアが言った。

「その言葉を軽く受け取ったりはしない。」エルデンが言った。「僕はずっと君の味方になる。一つ借りができたな。」

そう言うと、エルデンは振り向いて急いで去って行き、集団の中に戻った。

これをどう解釈したら良いか、ソアにはわからなかった。短い間に状況が変わったことに驚いた。

「根っからの悪い奴じゃあなかったのかな。」とオコナーが言った。「まあ良い奴なのかも知れない。」

皆は武器庫に着いた。大きな扉が開き、ソアは恐れかしこんで中に入った。彼はゆっくりと歩いた。首を伸ばして大きな円の中の場所を観察し、全てを把握しようとした。何なのかソアにはわからないものも含め、数百個もの武器が壁にかけてある。他の少年たちは嬉しそうに急いでそれらに駆け寄り、手に取って使ってみたり、点検したりしている。ソアも皆にならった。キャンディのお店に行った子どものような気持ちだった。

彼は大きな矛やりのところへ行き、木の柄を両手で握って持ち上げ、重さを実感した。非常に大きく、よく油を差してあった。刃は磨耗してギザギザになっていた。戦いで実際に人を倒すのに使われたのかと思った。

ソアはそれを置き、釘のついた殻さおを取った。飾り鋲のついた金属製のボールが長い鎖で短いさおに取り付けてあった。彼は飾り鋲付の木の柄を持ち、金属の釘が鎖の端でぶらさがっているのを感じた。傍らではリースが戦闘用の斧を使ってみている。オコナーは長い矛を、想像上の敵に向かって宙を突くようにして試していた。

「聞け!」コルクが言った。皆、彼の方を向いた。

「今日は、離れている敵と闘う方法を学ぶ。どんな武器が使えるか言える者は?30歩離れた敵は何で倒せるか?」

「弓矢です。」誰かが声を上げた。

「そうだな」コルクが答える。「他には?」

「やりです!」他の者が叫んだ。

「他は?これ以外にもまだあるぞ。聞いてみよう。」

「投石具です。」ソアが言った。

「他には何がある?」

ソアは頭を働かせたが、もう思いつかない。

「投擲用ナイフ」リースが言った。

「他にもあるか?」

少年たちは戸惑った。皆、これ以上思いつかない。

「投擲用ハンマーがある。」コルクが言った。「それから投擲用の斧に石弓。矛も飛ばせる。剣もだ。」

コルクはじっと耳を傾けている少年たちの顔を見ながら、部屋を歩き回った。 「これだけではない。地面に落ちている石でさえ頼りになることもある。戦争で英雄になった牛のような大男が、器用な兵士が投げた石で即死したのを見たことがある。また、兵士はたいてい鎧自体が武器として使えることも知らない。こては外して敵の顔に投げることもできる。これで数フィート離れた相手を気絶させ、その間に殺すことだってできる。盾も投げることができる。」

コルクは一息ついた。

「戦い方を学ぶ時、自分と敵の間の距離のまま戦うわけではない、というところが重要である。戦う距離を広げなければならない。3歩ぐらいの距離で戦うことが多いが、優れた戦士は30歩の距離で戦う。わかったか?」

「はい」皆が揃って返事をした。

「よし。今日は投擲の技術を高めよう。部屋中を回って、どれでも見つけた投擲の道具を取ること。各自一つずつ取り、30秒以内に外に出ること。始め!」

部屋中で奪い合いが始まった。ソアは壁に向かって走り、取るものを探した。興奮した少年たちにあちこちからぶつかったり、押されたりしながら、やっと欲しいものを見つけて取った。小さな、投擲用の斧である。オコナーは短刀、リースは剣を取り、3人は他の少年たちと一緒に外のフィールドへ走り出た。

皆は、フィールドの一番端のほうへコルクの後をついて行った。そこには、柱に12枚の盾を取り付けて並べてあった。

少年たちは全員武器を手に、期待に胸を膨らませてコルクの回りに集まった。

「君たちはここに立つ。」土で作った線を指差しながら、大声でコルクが言った。 「武器を投げる時はあの盾を狙え。それから盾に向かって走り、別の武器を取る。そしてそれを投げる練習をする。決して同じ武器を選んではいけない。常に盾を狙うこと。盾をはずしたものは、フィールドを一周走らなければならない。では始め!」

少年たちは土の線の後ろに肩が触れ合うようにして並び、30ヤードは離れているに違いない盾に向かって武器を投げ始めた。ソアは皆と一緒に並んだ。すぐ脇の少年は腕を後ろに下げて槍を投げた。紙一重ではずした。

その少年は振り返って、競技場を走り始めた。その間、兵士たちの一人がそばを一緒に走り、重い鎖かたびらのマントを彼の肩にかけ、重みで沈ませた。

「これを着けて走るんだ!」兵士が命令した。

少年は重みで体が沈み、既に汗をかいていたが、暑さのなか走り続けた。

ソアは的をはずしたくなかった。体を反らせて集中し、投擲用の斧を後ろに引いて投げた。目を閉じて的に当たるよう祈り、それが革の盾に埋まる音を聞いてほっとした。下の角に当たったのですれすれだったが、なんとかできた。周りでは何人かの少年たちが的をはずして、競技場に走りに行った。的を射た数人が盾に向かって走り、新しい武器を取りに行った。

ソアは盾に手を伸ばし、長くて細身の投擲用短刀を見つけ、それを取って線まで戻った。

皆、何時間も投げ続けた。ソアの腕はひどく痛み、競技場もかなりの回数を走った。周りの者たち同様汗をしたたらせていた。それぞれ異なる柄や刃に慣れるため、全種類の武器を投げてみるという練習はとてもおもしろかった。ソア自身も、投げるたびに良くなっていき、どんどん慣れていくのを実感した。それでも、うだるような暑さで疲れていた。ほとんどの少年は走るほうへ行ってしまっているので、盾の前には12名の少年しか残っていなかった。的をこれほどの回数射るのは大変すぎた。また走りと暑さで精確さを保つのがより難しくなった。ソアはあえぎ、あとどれくらい続くかわからなかった。もう倒れるかと思った時に、コルクが突然前に出た。

「やめ!」彼は言った。

少年たちは走りから戻ってきて、草のうえに倒れた。横たわってあえぎ、息をしながら、かけてあった鎖かたびらの重いコートを取った。ソアも草の上に座り、汗だくでぐったりしていた。兵士が何人かバケツの水を持ってきて、草の上に置いた。リースが手を伸ばして一つつかんで飲んだ後、オコナーに渡し、また飲んでソアに渡した。ソアはあごや胸に水をこぼしながら飲んだ。水がおいしかった。リースに戻す時、大きく息をついた。

「どれくらい続くんだ?」ソアが聞いた。

リースは息を切らして首を振った。「わからない。」

「俺たちのことを殺そうとしてる。」声が聞こえた。ソアが振り向くとエルデンだった。やって来てそばに座っていた。エルデンがそこにいるのがソアには信じられなかった。本当に友達になりたいのだということがよくわかった。彼の行動にこんな変化があるのが奇妙だった。

「皆の者!」コルクが少年たちの間を歩きながら叫んだ。後のほうになって的を外す者が多くなってきた。わかっただろうが、疲れてくると的を精確に射るのが難しくなってくる。そこがポイントだ。戦いの間、体は元気のある状態ではない。疲れる。戦いによっては何日も続くことがある。特に城を攻めている時はそうだ。そして、その一番疲れている時にこそ、一番精確な投擲を行わなくてはならない。ある武器を投げることを余儀なくされることは多い。どれほど疲れていても、どの武器でもうまく扱えるようになっていなければならない。わかったか?」

「はい!」皆が返事をした。

「ナイフまたは槍を投げられる者はいる。だが同じ者がハンマーや斧では的を外す。武器一つだけを投げていて生き残れると思うか?」

「いいえ!」

「これがゲームだと思うか?」

「いいえ!」

コルクはしかめ面で歩き、背筋をしっかり伸ばして座っていないと思われる少年たちの背中を蹴った。

「休憩は十分だ。」彼は言った。「立て!」

ソアは他の者と一緒に急いで立ち上がった。脚はくたくたで、あとどれくらい持ちこたえられるものかわからなかった。

「距離を置いた戦いには二面ある。」コルクが続けた。「君たちは武器を投げることができる。それは敵も同じだ。相手は30歩も離れていながら安全ではない。君たちも同じなのだ。30歩離れた状況で自分を守る方法を身につけなくてはならない。わかったか?」

「はい!」

「飛んでくるものから自分を守るためには、気が付いて速く足を動かす、あるいは身をかがめてかわす、転がる、よける、といったことの他に、大きな盾で自分を守ることにも長けていなければならない。」

コルクが合図すると、兵士が大きな、重い盾を持ってきた。ソアはびっくりした。自分のほぼ二倍もある。

「誰か手伝う者は?」コルクが聞いた。

少年たちは躊躇するか、考えてみもせず黙っていた。ソアは雰囲気に押され、手を挙げた。

コルクがうなずき、ソアは急いで前に出た。

「よし」コルクが言った。「少なくとも一人は手を挙げるほど愚か者だということだ。その心意気が気に入った。愚かな判断だが、良い。」

ソアは、コルクが巨大な金属製の盾を彼に渡したとき、判断を誤ったのではと思った。それを片方の腕に結びつけ、その重さが信じられなかった。持ち上げることもできない。

「ソア、君がやることはこのフィールドのこちら側から反対側まで走ることだ。 無傷でだ。君に向かい合っているあの50人の少年が見えるか?」コルクがソアに向かって言った。「皆、君に向かって武器を投げる。本物の武器だ。わかったか?自分を守るために盾を使わなかったら、反対側に着く前に死ぬかもしれないのだ。」

ソアは信じられない思いで見返した。少年たちは皆、沈黙した。

「これは遊びじゃない。」コルクが続けた。「本気でやる。戦いは真剣だ。生か死しかない。本当にやってみるか?」

ソアは、恐怖で凍りつき、何も言えないままうなずいた。皆の手前、この時点で気を変えることなんてできない。

「よし。」

コルクが合図をすると、付き人が前に進み出てホルンを鳴らした。

「走れ!」コルクが叫んだ。

ソアは重い盾を全力でしっかり握り、両手で持ち上げた。そうする時、ドシンという音が響いた。ものすごい音でソアの脳天が震えた。恐らく金属製ハンマーだろう。盾を貫くことはなかったが、ソアの全身に大変なショックを与えた。盾を落としそうになったが、なんとか握り続けて進んだ。

ソアは、盾を持ち足を引きずりながらも、できるだけ速く走り始めた。武器やミサイルが自分をかすめて飛んでくるなか、出来る限り盾の中にうずくまるようにした。盾は自分の命綱だ。 走りながら、盾のなかにい続けるやり方を学んだ。

矢が彼のほうに飛んできて、あと1インチというところをかすめた。ソアはあごをきつく引いた。別の重い物体が盾に当たる。衝撃が強すぎたため、ソアは数フィートよろめいて地面に倒れた。ソアはすぐに立ち上がり、走り続けた。大変な努力の末、息を切らしながらソアはフィールドの向こうがわまでたどり着いた。

「下がれ!」コルクが叫んだ。

ソアは盾を落とした。汗が流れた。反対側にたどり着けて嬉しいなんてもんじゃなかった。盾をあと一瞬でも長く持っていられるかどうかさえわからなかった。

ソアは急いで皆のところへ戻った。ソアを称賛の目で見る者が多くいた。どうやって生き延びたのかと考えた。

「良かったよ。」リースがささやいた。

「他にやってみる者は?」コルクが呼びかけた。

沈黙が流れた。ソアが試したのを見て、誰もやってみたいとは思わなかった。

ソアは自分を誇らしく思った。何が起こるのかわかっていたら、手を挙げていたかどうかわからない。でも今はもう終わった。やって良かったと思った。

「よし。では私が君たちに代わって選ぶ。」コルクが言った。「君だ!セイデン!」コルクが誰かを指差して呼んだ。

年上の痩せた少年が前に出た。怖がっているようだ。

「僕ですか?」セイデンは言った。声が割れていた。

他の少年たちが笑った。

「もちろんだ。他に誰がいる?」コルクが言う。

「申し訳ありません、上官どの。僕にはできません。」

リージョンの全員が恐怖に息をのんだ。

コルクが進み出て彼に近寄り、にらんだ。

「君は自分がやりたいことをするのではない」コルクがうなるように言った。「私が言うことをするのだ。」

セイデンは、死ぬほど怖くなり、凍りついてそこに立っていた。

「 彼はここにいるべきじゃないな。」リースがソアにささやいた。

ソアが振り向いて彼を見た。「どういう意味?」

「彼は貴族の出身でここに入隊させられたんだけれど、自分ではここにいたくないんだ。戦士っていう柄じゃないんだ。コルクはそれを知っていて、彼をつぶそうとしている。追い出したいんだ。」

「上官どの、申し訳ありませんが、私はできません。」セイデンが恐れおののいた声で言った。

「できる。」コルクが叫んだ。「やるんだ!」

行き詰った緊張感があった。

セイデンは地面を見下ろし、恥ずかしさに俯いた。

「申し訳ありません、上官どの。他の仕事を与えてください。喜んでいたします。」

コルクは顔を赤くして、彼のほうへ向かって行き、セイデンまであと数インチというところまで顔を近付けた。

「君には他の仕事を与えることにする。 どんな家柄かなんて気にしない。今からお前は走るんだ。倒れるまでこのフィールドを走るんだ。この盾を持つ気になるまで戻るな。わかったか?」

セイデンは頷きながら、泣き出しそうに見えた。

兵士がやって来てセイデンに鎖かたびらを、そしてもう一人の兵士が二つめの鎖かたびらをかけた。どうやったら彼がこの重みに耐えられるのか、ソアにはわからなかった。一つだけでさえまともに走れなかった。

コルクは反り返り、後ろからセイデンを蹴った。セイデンは前によろめき、長くゆっくりとしたフィールドでの走りを始めた。ソアは気の毒に思った。彼がよたよたと進むのを見て、リージョンで生き延びていけるのかと思わざるを得なかった。

突然、ホルンが鳴った。ソアは、王の兵士の一団が馬に乗り、12名のシルバーと共にやってくるのを見た。長槍を持ち、羽根のついた兜をかぶっている。馬に乗って近づき、リージョンの前で止まった。

「王女の結婚と夏至を祝い、国王より本日はこれから狩猟の日とするとのお達しがあった!」

ソアの周りの少年たちから大きな歓声が上がった。馬が向き直りフィールドを横切って行くのを追って、皆が一気に走り出した。

「何があるんだい?」ソアは他の者たちとともに走り始めながら、リースに聞いた。リースは満面の笑みを浮かべた。

「これは天の恵みだ。」彼は言った。「今日はもう休みだ!狩りができる!」

第二十一章

ソアは皆と一緒に森の小道を小走りに進んだ。狩猟用にと手渡された槍を持っていた。そばにはリース、オコナー、エルデン、そしてリージョンのメンバーが少なくとも50名はいた。彼らの目の前には百名のシルバーが軽い鎧を身につけて馬に乗り、短い槍を持つ者もいたが、大半は背中に弓矢を背負っていた。その間には、従者や付き人が数十名走っていた。

先頭では、いつにも増して大きく立派に見えるマッギル国王が馬に跨っている。意気揚々とした笑みを浮かべている。二人の息子たち、ケンドリックとガレス、そしてソアが驚いたことには、ゴドフリーも脇に従えていた。数十人の見習いが彼らの間を走り、その中の何人かは反り返って象牙でできたホルンを吹いている。他の者は、馬に追いつこうと吠えながら走る犬を引っ張っていた。大変な騒ぎだった。大勢の人間が森を抜けて走って行き、いくつか別々の方向に分かれ始めた。皆がどこに向かっているのか、どのグループについて行くべきか、ソアにはわからなかった。

馬に乗ったエレックが近くにいたので、ソアたちは彼について行くことにした。ソアはリースのそばに走ってきた。

「どこに向かっているんだろう?」息を切らして走りながら、リースに聞いた。

「森の奥だ。」リースが答えた。「王の兵士たちが、獲物を一日分取り返そうとしている。」

「どうしてシルバーの騎士で馬に乗っている人と歩いている人がいるんだろう?」オコナーがリースに聞いた。

「馬に乗っている人たちは、鹿や鳥のような楽にしとめられる獲物を狩るんだ。」リースが答えた。「彼らは弓を使う。歩きの人たちは、イノシシみたいにもっと危険な動物を狙うんだ。」

ソアはこの動物のことが話題に上って、わくわくする気持ちと緊張感に包まれた。子どもの頃一度見たことがある。扱いにくく、危ない生き物で、ちょっとした挑発で人間を真っ二つに引き裂いたりすることで知られている。

「年長の戦士は、馬に乗って鹿や鳥を獲りに行くことが多い。 」エレックが見下ろして、付け加えた。「若い者は歩いて、より大きな獲物を追いかける。そのためには、もちろんよく鍛えていないとならないが。」

「そのために君たちをこの狩りに参加させた。」そう遠くないところを他の者と一緒に走りながら、コルクが叫ぶ。「君たちの訓練にもなるのだ。狩猟の間中歩き続け、馬について行かなければならない。その際、小グループに分かれることになる。皆、それぞれの別れ道を行き、それぞれの獲物を狩るのだ。最もたちの悪い動物を見つけ、しとめるまで戦う。それは戦士になるのと同じ資質、つまりスタミナ、恐れを知らぬ心、また、相手がいかに大きくどう猛でも決して逃げないことだ。さあ、行け!」コルクが叫んだ。

ソアは彼の仲間同様、森を抜けて行く時、馬に追いつくよう速く走った。どちらの方向に行ったら良いかは知らなかったが、リースやオコナーにくっついていれば大丈夫だと思った。

「矢だ、早く!」エレックが叫んだ。

ソアはすぐに動いた。エレックの馬のそばを走りながら、鞍の矢筒から矢を一本取り出してエレックに渡した。エレックは馬に乗ったままその矢を弓につがえてスピードを緩め、森の中の獲物に確実に狙いを定めた。

「犬だ!」エレックが叫んだ。

国王の付き人の一人が吠える犬を一匹放ち、犬は茂みの中に飛び込んで行った。ソアが驚いたことに大きな鳥が飛び上がったのだが、その時エレックが矢を放った。これが首に完璧に命中し、鳥は落ちて死んだ。エレックがそれを見つけた方法にソアはひどくびっくりしていた。

「鳥だ!」エレックが大声で言った。

ソアは走り、死んだ鳥をつかんだ。首から血を出して、体がまだ生温かい。エレックのところへ戻り、鳥をぶら下げていけるようエレックの乗る馬の鞍に吊るした。

ソアの周りでは、馬に乗った大勢の騎士が同じことをしていた。鳥を飛び立たせてから撃ち落としては、従者に取りに行かせる。ほとんどが矢を使っていたが、なかには槍を使う者もあった。ケンドリックは槍を引き、狙いを定めて鹿を目がけて投げた。見事に喉に命中し、倒した。

ソアは森の獲物の豊かさ、持ち帰る獲得量に驚いた。宮廷で数日間かけて消費するのに十分な量だ。

「これまで狩猟に出たことはあるの?」ソアは走っている時に兵士の一人に踏みつけられそうだったのをなんとかよけながら、リースに呼びかけた。犬が吠え、ホルンが鳴り、男たちが動物を次々しとめて勝ち誇り、叫んだり笑ったりしているなかでは、よく聞こえなかった。

リースは満面の笑顔で、丸太を飛び越して走り続けた。

「何度もあるよ!父が行く時だけだけれど。決まった年齢になるまでは参加させてもらえないんだ。無傷で帰れる者はいないけど、わくわくするよ。イノシシを追って何人か怪我をしたり死んだりした。」

リースは息を切らして走った。「僕はいつも馬に乗っていた。」付け加えて言った。「以前は歩きで行くのを許されなかった。リージョンではイノシシの狩りは許されていなかった。これが初めてだよ!」

森の様子が突然変わった。目の前には数十本の小道が延びていて、道が12本に分かれていた。ホルンがもう一度鳴り、大集団が小グループに分かれ始めた。

全員が分かれる時、ソアはエレックのそばに留まり、リースとオコナーもそれに加わった。彼らはきつい勾配で下っていく狭い道へと曲がった。とにかく走った。ソアは槍を握って、小川を飛んで渡った。小グループは馬に乗ったエレックとケンドリック、歩きのソア、リース、オコナーとエルデンの6人だった。ソアが振り向くと、後ろからリージョンのメンバーがもう二人走ってきて加わっていた。二人とも体が大きくて身幅がある。砂色でウェーブのかかった髪が目の下まであり、にこやかだ。二人ともソアより2歳ぐらい年上に見える。一卵性双生児だ。

「僕はコンバル、」一人がソアに呼びかけた。「僕はコンベン。」

「僕たちは兄弟だ。」コンバルが言った。

「双子だ。」コンベンが付け足した。

「一緒に行っても良いかな?」コンバルがソアに言った。

ソアは二人がリージョンにいるのは見たことがあったが、互いに自己紹介したことはなかった。新しいメンバーと出会うのは嬉しかった。特に自分に好意的な相手は。

「一緒にできて嬉しいよ。」ソアが言った。

「たくさんいるほうが良いしね。」リースが言う。

「この森のイノシシはすごく大きいと聞いてる。」コンバルが言った。

「そしてどう猛だと。」コンベンが応える。

ソアは双子が持っている、自分の槍の3倍はある長い槍を見て考えた。そして彼らが自分の短い槍を見ているのに気付いた。

「その槍は長さが十分じゃないな。」コンバルが言う。

「ここのイノシシは牙が大きい。もっと長いのが必要だ。」コンベンが言った。

「僕のを使えよ。」エルデンがソアのほうに走ってきて自分の槍を渡してくれた。 「君のを取るわけにはいかないよ。」ソアが言った。「君は何を使うんだ?」

エルデンは肩をすくめた。「僕は大丈夫だよ。」

ソアは彼の気前の良さに心を打たれ、自分たちの関係がどれほど変わったかに驚いた。

「私のを一本使いなさい。」命令する声が聞こえた。

ソアが見上げると、エレックがそばに馬でやってきて、二本の長槍が積んである鞍を指差していた。

ソアは手を伸ばし、鞍から長槍を一本、感謝しながら取った。重くて、持ったまま走りづらいものだったが、守られている感じがしたし、自分にも必要そうだった。

皆、走り続けた。ソアの肺は破裂しそうで、これ以上行けるかわからなかった。ソアは周囲に動物の気配がないか警戒していた。他の皆と一緒にいて安全だと思ったし、長槍があるので怖いものなしだった。それでも非常に緊張していた。イノシシ狩りはしたことがないため、どんなことになるのかまるでわからなかった。

肺が燃えそうになるまで走った頃、森の中の開けた場所に出た。ありがたいことに、エレックとケンドリックが馬を止めた。ソアは、皆も止まってよいとお許しが出たものと思った。森の中の空き地に8人全員が止まった。少年たちは息を切らし、エレックとケンドリックは馬から下りた。馬もあえいでいる。それ以外は静かで、木々の間をそよぐ風の音だけがした。森を駆ける何百人もの男たちの騒音はもう聞こえない。ソアは、他の者たちからかなり離れたことを悟った。

彼はあえぎながら、立って空き地の周囲を見回していた。

「動物の痕跡はまだ見ていない。」ソアがリースに行った。「何か見た?」

リースも首を振った。

「イノシシは狡猾な動物だ。」エレックが前に出て言った。「いつも姿を現わすわけではない。向こうがこちらを観察しているということもある。待ってから、こちらが油断した時に攻撃してくるのかも知れない。常に警戒を解かないように。」

「気をつけろ!」オコナーが叫んだ。

ソアが向きを変えると、突然大きな動物が空き地に飛び出してきて大変な騒ぎとなった。ソアはたじろぎ、皆がイノシシに襲われたのだと思った。オコナーが叫び、リースが振り返って槍を投げたが外れた。その生き物は宙に飛びあがった。その時、ソアにはそれがただの七面鳥だとわかった。森の中に消えて行った。

皆が笑って、緊張が解けた。オコナーの顔が赤くなり、リースが安心させようと彼の肩に手を置いた。

「心配するな。」リースが言った。

オコナーは恥ずかしくなって、顔をそらした。

「ここにはイノシシはいない。」エルデンが言った。「選んだ道が悪かった。ここを下っても、いるのは鳥だけだ。手ぶらで帰ることになりそうだな。」

「それも悪くないかも知れない。」コンバルが言った。「イノシシとの闘いは命に関わるって聞くから。」

ケンドリックはそこに立ち、静かに森の様子を探っていた。エレックも同じだった。ソアはこの二人の顔から、何かがそこにいるのだと感じた。彼らの経験と知恵から警戒しているのだ、ということが見て取れた。

「小道はここで終わっているようだな。」リースが言った。「もしこのまま進めば、道しるべのない区域に出る。帰り道が見つからないだろう。」

「でももし戻ったら、それで狩りは終わりだ。」オコナーが言う。

「手ぶらで帰ったらどうなるだろう?」ソアが聞いた。「イノシシなしで。」

「笑いものになるだろうな。」エルデンが言った。

「なるものか。」リースが言った。「誰もがイノシシを見つけるわけじゃない。実際、見つけられるほうが珍しいんだ。」

皆、深呼吸をし、森を見ながら黙ったままそこに立っていた。ソアは急に、水を飲みすぎたことに気づいた。狩りの間ずっと手に持っていた。膀胱に痛みを感じ、我慢ができなくなった。

「ちょっと失礼します。」と彼は言って、森の中に入って行った。

「どこに行くんだ?」エレックが警戒して尋ねた。

「ちょっと用を足さないとならないので。すぐに戻ります。」

「遠くには行くな。」エレックが注意した。

ソアは人目を気にしながら森の中に急ぎ、皆から20歩ぐらい離れたところに、ちょうど隠れる場所を見つけた。

用を足し終わったその時、突然枝が折れる音がした。大きくはっきした音で、人間のものではないとわかった。

背筋がぞっとする思いで、ゆっくりと振り返って見た。もう10歩ほど行った上のほうに、別の小さな空き地と、その中央に大きな岩があった。その岩の下のところで動きがあった。小さな動物で、何かは見分けられなかった。

ソアはそこに立ち、皆のところへ戻るべきか、それが何か見届けるべきか考えた。そしてすぐによじ登って行った。何の動物であろうと、失いたくなかった。もし皆のところへ帰ったら、ここに戻る頃にはいなくなっているかも知れない。

ソアは近づいて行った。髪の毛が逆立っている。森はどんどん深くなり、動けるスペースもあまりない。見えるのはこんもりした森ばかりで、日が鋭い角度で射し込んでいる。やっと空き地に着いた。近づいた時、槍を持っていた手が緩み、腰のところまで下がってしまった。目の前の空き地で、太陽の光の中に見えたものに驚いた。

岩の脇の草の中でもじもじ動いているのは、ヒョウの子どもだった。そこに座り、体をくねらせて鳴き声を上げ、日の光に目を細めていた。生まれたばかりのように見える。1フィートあるかどうか、ソアのシャツに入れられるぐらい小さかった。

ソアは感嘆して見ていた。ヒョウの子どもは全身が白く、白ヒョウの子どもに違いないと思った。最も珍しい動物だ。

突然、背後で木の葉が擦れあう音がして振り返ると、皆が自分のほうへ急いでやってくるのが見えた。リースが先頭で心配そうな顔をしている。あっという間に自分のそばまで来た。

「どこまで行っているんだ?」リースが聞いた。「死んだかと思ったじゃないか。」

自分のもとへやってくる時、ヒョウの子どもが皆の目にも入り、ショックで息を飲むのが聞こえた。

「何か重大なことの前兆だ。」とエレックがソアに言った。「一生に一度の発見だ。すべての動物のうちで最も珍しい種だ。一匹で置き去りにされているとは。世話をする者がいないのだ。つまりそなたのものだ。そなたが育てる責任がある。」

「僕のもの?」ソアが混乱して尋ねた。

「君の責任だ。」ケンドリックも言った。「君が見つけたのだから。あるいは、ヒョウが君を見つけた、と言うべきか。」

ソアはまごついた。羊の世話はしたことがあるが、今まで動物を育てたことなんてない。どうしてよいかわからなかった。

だが同時に、彼はその動物と既に強い絆のようなものを感じていた。その小さな青い目は自分だけを見ているようだった。

ソアはヒョウに近づき、かがんで腕に抱えた。それは体を伸ばしてソアの頬をなめた。

「ヒョウの子どもの世話はどうするのでしょう?」ソアは圧倒されて尋ねた。

「他の動物と同じじゃないかと思う。」エレックが言った。「お腹が空いたら食べさせてやるんだ。」

「名前をつけなくてはいけないな。」ケンドリックが言った。

ソアは考えに考えて、この数日間で動物に名前をつけるのがこれで二度目なのに驚いた。子どもの頃に聞いた、村を震え上がらせたライオンの話を思い出した。

「クローンにする。」ソアが言った。

皆がうなずいて賛成した。

「伝説みたいだな。」リースが言う。

「気に入ったよ。」オコナーが言った。

「クローンだな。」エレックが応えた。

クローンがソアの胸の中に頭をうずめたとき、これまでにはなかった強いつながりをこの動物に感じた。クローンが体をくねらせて自分に向かって高い声で鳴くのを見ると、ずっと前からクローンのことを知っていたような気がしてならなかった。

その時突然、特徴のある音が聞こえた。ソアの背筋をぞくっとさせるような音で、彼は素早く振り返り、空を見上げた。

空のずっと上のほうにエストフェレスがいた。ソアの頭を目がけて急降下してきた。最後の瞬間でまた昇る前に高い声で鳴いた。

最初はエストフェレスがクローンに嫉妬しているのかとソアは思った。だが、ほんの一瞬の間に、このハヤブサはソアに警告をしていたのだと気づいた。

その後すぐに森の反対側から、はっきりした音が聞こえてきた。最初は擦るような、次に突進する音が聞こえた。すべてがあっという間の出来事だった。

その警告がソアには有利だった。大きなイノシシが彼のほうへ真っ直ぐに突進してきたのが見え、一瞬で飛び跳ねてよけた。危ないところで当たらずに済んだ。

空き地は混乱に陥った。イノシシが他の者にも突進し、あちこちに猛烈に牙をむいた。たった一度の突撃でオコナーの腕を切り裂き、血が噴出してオコナーが叫びながら腕をつかんだ。

まともな武器もなく雄牛と闘うようなものだった。エルデンが長槍で突こうとしたが、イノシシは顔の向きを変えて大きな口でかぶりつき、ちょっとした動きで槍を真っ二つに噛み切ってしまった。それから振り返ってエルデンに突進し、あばらを直撃した。幸いエルデンは、牙で引き裂かれるのをすんでのところでよけた。

このイノシシは手に負えない。血を求め、この人間たちを倒すまで逃がさないつもりだ。

皆は持ち直して行動に出た。エレックとケンドリックは剣を抜き、ソア、リース、そして他の者もそれにならった。

全員でイノシシを取り囲んだが、攻撃するのは難しい。特に3フィートもの牙があっては、全く近寄れなかった。イノシシは円を描くように走り、空き地内で皆を追いかけ回した。攻撃を順番に行い、エレックが直撃して脇を切りつけた。それでもこのイノシシは鉄でできてでもいるのか、動きを止めない。

その時、状況が変わった。ほんの一瞬、何かがソアの目に止まった。ソアは顔を向け、森の中を見た。遠くの木の陰に、黒いフード付きのマントを着た男が確かに見えた。ソアは彼が弓矢を取り、空き地に向かって射ろうとしているのを見た。イノシシでなく、 男たちを狙っているようだった。

ソアは幻を見ているのかと思った。自分たちは攻撃を受けるのだろうか?この、何もないところで?一体誰の?

ソアは自分の本能に任せた。自分たちが危険にさらされているのを感じ、皆のほうへ走った。男がケンドリックを狙っているのが見えた。

ソアはケンドリックに向かって飛び込んだ。激しくぶつかり、地面に倒した。その時、一瞬遅れて矢が飛んできて、当たらずに済んだ。

ソアはすぐに森のほうを見やった。狙撃者を探したがもう消えていた。

考えている暇はなかった。イノシシは未だに空き地内を狂ったように走り回っていた。皆から1フィートしか離れていなかった。今度は自分たちのほうを向き、ソアは反応する時間もなかった。長く、鋭い牙で押さえつけて来たとき、その衝撃をまともに受けた。

一瞬の後、甲高い鳴き声が聞こえた。ソアは振り返って、エレックが獣の背にまたがって剣を高く掲げ、イノシシの首の後ろに突き刺すのを見た。イノシシがうなり声を上げて口から血が噴き出し、エレックを背中に載せたまま崩れて膝を付き、地面に倒れた。ソアからたった1フィートのところで息絶えた。

皆そこに立ち尽くし、お互いを見ながら身動きもしなかった。そして今起こったことは何だったのだろうと考えていた。

第二十二章

シャツの中にクローンを入れ、連れて歩いているソアは、リースが酒場の扉を開けた時その騒音に圧倒された。彼らを待っていたリージョンのメンバーや兵士が大勢で店を埋め尽くし、大声で叫びながら迎えた。店内は混みあい、暑かった。ソアはすぐに仲間たちにはさまれ、肩を並べた。長い狩猟の一日が終わり、皆、森の奥のこの酒場に集って祝っていた。シルバーが案内をし、ソア、リース、そして他の少年たちもそれに従った。

ソアの後ろでは、双子のコンバルとコンベンが他の誰よりも大きい獲物、イノシシを長い竿に吊るし、肩にかけて運んだ。店に入る前に、酒場の扉の前に降ろさなければならなかった。ソアが今一度イノシシを眺めたが、いかにもどう猛そうで、こんなものを本当にしとめたとは思えなかった。

ソアはジャケットの中でごそごそ動いているのを感じ、新しい仲間のクローンを見下ろした。白ヒョウの子どもを連れて歩いているなんて信じられなかった。水晶のような青い瞳でこちらを見つめて鳴いている。ソアはお腹が空いているんだろうと思った。

ソアは、後ろから数十人の者がなだれ込んで来る酒場で、人に押されながら混み合う奥の小スペースまで進んだ。中のほうは6度ほどあたたかかった。蒸し暑いのは言うまでもなかった。エレックやケンドリックに続き、後ろにはリース、エルデン、双子の兄弟とオコナーが続いた。イノシシに切り裂かれたオコナーの腕には包帯が巻かれ、血は既に止まっていた。オコナーは傷を負ったことそのものよりも呆然としてしまっていたが、機嫌の良さは戻っていた。グループの皆が部屋の奥に移っていた。

肩がぶつかるほど混んでいて、向きを変えることさえできないほどだった。長いベンチがあり、立っている者も、座っている者もあった。酒を飲む時の歌を歌い、友の杯と自分のをぶつけて乾杯し、音を立てて杯をテーブルに置いたりした。騒々しい、陽気な雰囲気で、ソアは経験したことがなかった

「酒場は初めてかい?」エルデンが聞こえるように叫んだ。

ソアはまたもや田舎者の気分でうなずいた。

「エールも飲んだことがないんじゃないのか?」コンベンが尋ねた。笑いながら肩を叩いた。

「それはあるさ。」ソアは守りを固めるように言い返した。

顔は赤くなっていた。本当は飲んだことなどなかったので、誰にも気づかれないことを祈った。父親が決して許さなかった。もし許したとしても、買えなかったにちがいない。

「それなら良い!」コンバルが叫んだ。「バーテンさん、一番強いのをみんなに一杯ずつお願い。ソア、ここにベテランがいるよ!」

双子の一人が金貨を置いた。ソアはこの少年たちが持っているお金に驚いた。皆どんな家から来ているのだろうと思った。あの金貨は、自分の村なら家族全員を支えて一ヶ月持つだろう。

泡立つエールの杯が12人分、すぐにバーの上を滑ってきた。少年たちは道をかき分けて取りに来た。ソアの手には桶ごと渡された。手に泡がこぼれ、期待で胃がよじれた。ソアは緊張していた。

「狩猟に乾杯!」リースが叫んだ。

「狩猟に乾杯!」皆が繰り返した。

ソアは皆にならい、泡立つ液体を口に運ぶ時も自然に振舞おうとした。一口飲み、味が気に入らなかった。皆がごくごく飲んで、空になるまで口を杯から離さないでいるのを見た。ソアは同じようにしなければいけない気になった。でなければ臆病者に見える。彼は無理をして、なるべく速く飲むようにしたが、半分くらいでとうとう咳き込んだ。

皆はソアを見て大笑いした。エルデンが背中を叩いた。

「これが初めてなんだろう?」彼が聞いた。

ソアは口の泡を拭きながら赤くなった。幸い、返事をする前に部屋で誰かが叫び、皆、音楽家たちが人ごみをかき分けて入って来るほうを見た。リュートやフルートの演奏が始まり、シンバルがガンガン鳴った。ますます騒々しい雰囲気になった。

「よう兄弟!」声が聞こえた。

ソアは振り返って、自分より何歳か年上の少年を見た。腹周りはやせているが、肩幅がある。ひげは剃らないままで、少しだらしなく見えた。その少年が近づいて、リースをぎこちなく抱擁した。同じようにだらしない感じの連れが3人いた。

「お前をここで見つけるとは思わなかったなあ!」彼は言った。

「 時々は兄の真似をする必要があることもあるさ。」リースが微笑みながら言った。 「ソア、僕の兄のゴドフリーを知ってる?」

ゴドフリーがこちらを向いてソアと握手した。ソアはその手が滑らかでぽっちゃりしていることにどうしても気づいた。戦士の手ではなかった。

「新人だね。もちろん知ってるよ。」ゴドフリーがかがみ込んで近づき、はっきりしない言い方で言った。「王国中が彼の話題で持ちきりだ。良い戦士だそうだな。」彼がソアに言った。「残念だな、酒場にとっちゃ才能の無駄だ!」

ゴドフリーが反り返って大笑いし、3人の仲間もそれに続いた。そのうちの一人がかがんで、ソアの肩に手を置いた。皆より頭一つ分背が高く太っていて、赤い頬、酒による赤い顔をしていた。

「勇気があるのは良いことだ。でもそれだと戦場に行って寒い思いをする。飲んだくれはもっと良いことだ。いつも安全で暖かくいられる。それに温かい女もいつもそばにいる!」彼も、他の者も大声で笑った。バーテンがエールの新しい杯を彼らの前に置いた。ソアは飲めと言われないことを願った。もうエールが頭に回っている。

「今日は彼の初めての狩猟だったんだ!」リースが兄に言った。

「そうなのか?」ゴドフリーが返した。「じゃあ、一杯やらなきゃな?」

「それか二杯!」背の高い友達が言った。

ソアは、カップをもう一つ手に押し付けられて下を見た。

「一杯目に乾杯!」ゴドフリーが叫んだ。

「一杯目に乾杯!」皆が応えた。

「ずっと一杯目が続きますように」背の高いのが言った。「ただししらふの一杯目は抜かして!」

皆大笑いしながら飲んだ。

ソアはちびちびと飲み、杯を下ろして行こうとしたが、ゴドフリーがつかまえた。

「そういう風に飲むんじゃないよ、坊や!」ゴドフリーが叫んだ。彼は前に出てきて杯をつかむとソアの口に当て、ソアが飲み込むと皆が笑った。そして空の杯を置くと歓声が上がった。

ソアは頭ガクラクラしてきた。自制がきかなくなってきた気がし、集中できなくなった。嫌な感覚だった。

ソアはシャツの中でもぞもぞ動くのを感じた。クローンが頭をまっすぐに起こした。

「あれ、ここにいるのは何だ!」ゴドフリーが嬉しそうに叫んだ。

「ヒョウの子どもです。」ソアが答えた。

「狩猟で見つけたんだ。」リースが付け加える。

「お腹が空いているんだ。」ソアが言った。「何を上げたら良いかよくわからなくて。」

「もちろんエールだよ!」背の高い男が叫んだ。

「本当に?」ソアが聞いた。「体に悪くないんですか?」

「もちろんさ!」ゴドフリーが叫んだ。「ただのホップなんだからな!」

ゴドフリーは手を伸ばし、泡に指を入れてから差し出した。クローンが前にかがみ込んでなめた。何度も。

「ほら、気に入っているじゃないか!」

ゴドフリーは突然叫んで指を引っ込めた。血のついて指を上げて見せた。

「鋭い歯があるんだ!」彼は叫んだ。他の皆は笑った。

ソアは手を伸ばして、クローンの頭を撫で、ヒョウの口に自分の飲み物の残りを傾けた。クローンはごくごくと飲んだ。ソアはちゃんとした食べ物を探してやろうと思った。コルクがバラックに住まわせてくれ、リージョンのみんなも反対しなければ良いが、と願った。

音楽家たちが曲を変え、ゴドフリーの友達がまた数人やって来た。皆加わって、また全員で一杯ずつ飲み、ゴドフリーを人ごみの中に押しやった。

「また後でな」ゴドフリーは帰る前にリースに言った。そしてソアのほうを向き、「酒場にもっと来ると良いな!」

「戦場にもっと来ると良いな」ケンドリックが返した。

「それはないだろうな!」ゴドフリーはそう言って、仲間と一緒に大声で笑った。そして人込みの中に消えて行った。

「あの人たちはいつもあんな風に騒いでるの?」ソアがリースに聞いた。

「ゴドフリーかい?よちよち歩きの頃から酒場にいるさ。父ががっかりしている。自分じゃ満足しているけどね。」

「いや、僕が言っているのは兵士の人たちのことだ。リージョンも。いつも酒場に来るの?」

リースが首を振った。

「今日は特別だ。最初の狩猟、そして夏至。こんなことはめったにない。こういう時に楽しんでおくんだ。」

ソアは部屋の中を見回し、ますます頭が混乱した。ここは自分の来たい場所ではない。自分はバラックに戻って訓練を受けたい。そして、再びグウェンドリンに思いが至った。

「その男を良く見たか?」と、ケンドリックが近づいてきてソアに聞いた。

ソアは首をかしげながらケンドリックを見た。

「矢を放った、森の中の男のことだ。」ケンドリックが付け足して言った。

真剣な雰囲気になり、他の者たちが話を聞こうと近くに集まってきた。

ソアはもう一度思い出そうとしたが、無理だった。全てがぼんやりしている。

「もっと良く見ていたら良かったんですが」彼は言った。「あっという間のできごとだったので。」

「国王の別の家来の一人が、間違ってこちらに撃ってしまったのかもかも知れない。」オコナーが言った。

ソアは首を振った。

「そういう身なりじゃなかった。全身黒ずくめで、マントを着てフードをかぶっていた。それにたった一本、ケンドリックに狙いを定めて矢を放った後に消えたんだ。 ごめんなさい、もっとよく見ていれば良かった。」

ケンドリックは考えながら首を振った。

「兄さんを殺したい奴って誰だろう?」リースがケンドリックに尋ねた。

「暗殺者だったのか?」オコナーが聞く。

ケンドリックは肩をすくめた。「知っている限り、敵はいないんだが。」

「父上にはたくさんいる。」リースが言う。「父上にダメージを与えるために、兄さんを殺そうとしているのかも知れない。」

「あるいは、あなたが王位に就くのを阻止しようとしているのかも。」エルデンが主張した。

「でもそれはばかげている!私は非嫡出子だから王位は継げないんだ!」

皆が首を振って、エールを飲みながら 解明しようとしていた時、部屋の中でまた叫び声が上がった。全員の目が上の階に続く階段に注がれた。ソアが見上げると、女性の団体が上階の廊下から出てきて手すりのところに立ち、部屋を見下ろしていた。皆、肌を見せる服を着ていて、化粧が厚かった。

ソアは顔が赤くなった。

「あら皆さん、こんにちは!」赤いレースの洋服を着た、胸の大きい先頭の女が言った。

男たちがはやし立てた。

「どなたが今夜お金をお使いになるのかしら?」彼女が聞いた。

男たちがまた歓声を上げた。

ソアはびっくりして目を見開いた。

「ここは娼館なのか?」彼が聞いた。

他の者たちがあきれて沈黙し、彼を見た。そして大声で笑った。

「あれまあ、君ってうぶなんだなあ!」コンバルが言った。

「娼館に行ったことがないのか?」コンベンが言った。

「女を知らないほうに賭けるね!」エルデンが言った。

ソアは皆の視線を感じ、顔がビーツのように赤くなっていると思った。穴があったら入りたかった。皆は正しい。自分は女を知らない。でもそうは言わなかった。自分の顔を見れば明らかなのではと思った。

ソアが答える前に、双子の一人が手を挙げて背中で手をしっかり握り、金貨を階段上の女に投げた。

「最初のお客ができたじゃないか!」彼が叫んだ。

部屋にいた皆がはやし立てた。押したり引いたりして抵抗したにもかかわらず、ソアは人ごみの間を縫って、階段へと何十人もの男たちに前に押されていった。その間、心はグウェンへの思いでいっぱいだった。どれほど彼女のことが好きかということ。他の誰とも一緒にいたくないこと。

振り返って走り去りたかった。だが、文字通り逃げ道はなかった。体格の良い数十名の男たちがソアを前に押しのけ、退却を許さなかった。気が付いたら、階段の上の踊り場まで来て、自分よりも背が高く、きつい香水をつけ、自分のほうに向かって微笑んでいる女性を見つめていた。もっと悪いことには、ソアは酔っ払っていた。部屋がぐるぐる回っていて、すぐにでも倒れそうな気がした。

女がこちらに手を伸ばし、ソアのシャツを引っぱると部屋へと連れて行き、二人の後ろで扉がバタンと閉まった。ソアは彼女とは絶対に一緒に過ごしたりなんかしないぞ、と思った。心の中でずっとグウェンのことを考え、その思いを前面に押し出そうとした。こんな形で初めての体験を迎えたくない。

だが、自分の頭は言うことを聞いてくれない。彼はひどく酔っていて、物を見ることさえできなくなっていた。意識がなくなる前のことで覚えているのは、部屋を横切って女性のベッドのほうへ連れて行かれ、床に倒れる前に間にあえば良いと思っていたことだけだった。

Yaş sınırı:
16+
Litres'teki yayın tarihi:
10 ekim 2019
Hacim:
132 s. 4 illüstrasyon
ISBN:
9781632910141
İndirme biçimi:
Metin
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